※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ ひねもす 10 ~
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夜空と言っても、まだ19時を過ぎたころ。
街の灯りも多くて、星はそこまでたくさんは見えなかった。
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これは深夜2時3時に露天風呂に入ってみるのもいいかもしれないな。
満点の星空、とまではいかないだろうが、今よりは綺麗な夜空が見れるかもしれない。ロマンチストを語るつもりはないけれど、愛羽さんと一緒に綺麗なものをみたい願望は常にある。
飛び石を踏んで露天風呂と廊下を繋げている扉を通って中へ入ると、それまでビジネス方面に思考を飛ばしていた愛羽さんがこちらを向いた。
「なんか、畳の匂いしない?」
すんすん、と鼻を鳴らす彼女の言うとおり、いぐさの香りが廊下の奥へ来た時から強い。ということは、玄関を入って廊下の突き当りは、露天風呂への扉。その手前左側には、もう一つ扉がある。
この中からどうも、いぐさの香りはしてくるようだ。
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この部屋のコンセプトは温泉宿。
和テイストの内装をしているから畳があってもおかしくはない。
受付の所のパネルでどんな部屋なのかは少し見たが、実際に目にするのとは違う。
私と愛羽さんはこれから二泊する間の大半を過ごすであろう部屋の扉を大きく開けて、いぐさの香りを吸いこんだ。
「ひろーい!」
感動の声をあげる愛羽さんは部屋をぐるりと見渡して、足元へと視線を落とした。
そこには、畳。畳。畳。
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ドアを開けて一歩踏み入れ、右を見れば、大きなベッド。あれがキングなのかクイーンなのかダブルなのかサイズはよく解らないが、大きい。4人くらい並んで眠れそうだ。
その横にはサイドテーブルがあって、電話が設置されている。
視線を部屋右側から正面へと戻せば、ガラスの戸棚がある。そこには電気ケトルやティーセットとミネラルウォーター2本が見えた。
その戸棚の左横にはL字型のこれまた大きなソファが壁際に置いてあって、その左側は障子で仕切られている。障子の向こうには何があるのだろうか?
2枚の障子の幅しかない小部屋でもあるのだろうか。と予想していると、愛羽さんが、ててて、とそちらへ小走りで向かって、障子を開けた。
「わぁ! 和室だ!」
部屋を斜めに突っ切り、愛羽さんの背後に立つと、座卓と座椅子が見えた。
ベッドやソファが超巨大だったからなのか、二人用のその座卓がやけに小さく見えるし、座卓1つと座椅子2つしか物が置かれていない、二畳半の和室が窮屈に感じてしまう。
愛羽さんは「何か実家みたい~」と嬉しそうな声をあげているけれど、私はその和室の奥の壁がガラス張りなことにしか目がいかない。というか、目が釘付けだ。
なんで、左は壁で、右も壁で、正面は全面ガラス張りなんだ。
なんで、その向こうにお風呂場が見えるんだ……!
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上から下までガラス張りのそこから見えるのは、シャワーヘッドと浴槽。あとはシャンプーとかのボトル。
「これ……入ってたら見えませんか……外から」
「まぁ障子閉めたら見えないし、大丈夫なんじゃない?」
外から透けて見えるお風呂とか……落ち着いて入れたもんじゃない。
眉間に皺を寄せる私の横をすり抜けて、愛羽さんは探検を再開した。
障子のすぐ横にはドアがあって、愛羽さんが中を覗く。
「ぅわ、ここがトイレなの?」
篭った声が反響して聞こえてくる。
まさかここがトイレだったなんて、と言外に含まれているけれど、確かに、ほとんど部屋の中心であるその場所がトイレなのか、と驚きはある。
私は障子を閉めて、振り返って、ぎょっとする。
丁度ソファの正面だろうか、超、超、超巨大なテレビがある。
多分私の自宅に置いたら、物凄く見辛いだろうなと思うほど、でかい。
そのテレビが置かれている下はなにやら色々入っていそうな戸棚というか、テレビ台というか、引き出しやら扉やらが見える。
何が入っているのか開けてみたい衝動に駆られて、そちらへ向かうと、右側に洗面台があるのだと気付く。
この部屋に入った位置からみれば、左側に、椅子が2つ並べてあって、4人は並んで鏡を使えそうな巨大な鏡と、2つの洗面台。そこには化粧水とか歯ブラシだろう。いろいろと戸棚にならべてある。
その奥はどうやら、先程ちらっと見たバスルームのようだ。
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部屋の全貌を確認した愛羽さんは難しい顔をしながら、バスルームから出てきた。
「どうしました?」
テレビの下の戸棚の扉にかけていた手を止めて、彼女の難しい表情の意味を尋ねる。
「いや……うーん。どうもこの床一面に敷き詰められた畳が違和感しかなくて」
うん、確かに。
それこそ、部屋の床すべてが、畳なのだ。
あの小さい和室はもちろん、巨大ベッドの下からソファの下、ガラス戸棚の下まで全部、畳。
温泉宿といえば和室、和室といえば畳! みたいに、畳が傷むとか全く考えずにとりあえず敷き詰めた畳の上に家具を置いてある感じだ。
「もしかしてここの経営者って外国人の方なのかもしれませんね」
私のバイト先によく来るお客さんでティムスというパティシエさんが居るんだけど、「オージャパニーズワッビサッビィ、タッターミ」と一時期騒いでいたような記憶がある。
店長にわびさびの漢字が書けるようになってから騒げと叱られてシュンとしていた大男を思い出しつつ、なんとなくの考えを口にしてみると、愛羽さんはぽんと手を打って、大きく頷いた。
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