隣恋Ⅲ~ひねもす~ 9話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 9 ~

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「おお……開いた……」
「開いたね」

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 初めてのカードキーのドアを開けた感動を味わっていると、愛羽さんが小さく笑う。
 彼女にしてみれば何度もやったことのある事かもしれないが、鍵穴に鍵を挿し込んで回して開けるのが、私にとっての鍵だ。

 こんなカードで扉の鍵が開くのは、なんだかSFチックで格好良いのだ。

 扉を開けて中に入ると、大股4歩くらいの長さの縦長い玄関。横幅はドアより少し広いくらいの幅かな。両手を横に開けば手の平は壁にあたる。そして正面にはまた、ドア。

「へ……?」

 なんで、ドアが二つ?

「あぁ、ここはね」

 背後から中の様子を窺った愛羽さんは、私の背中を軽く押して広い玄関へと押し込んだ。そのあとに続いて、細長い玄関に入った彼女が、後ろ手に扉をぱたんと閉めれば、その数秒後に、カチ、と鍵の閉まる音が。

「閉じ込められた……!」
「こういうドアは自動ロックだから」

 コン、と軽く握った拳で振り返ったドアを軽くノックする愛羽さんは、苦笑を浮かべた。

 ……いやまぁ……多少大袈裟には言ったけどさ……なんかゲームの中のトラップの部屋に入った時みたいで楽しかったんだもん……そんな「はしゃいじゃって仕方ない子ね」みたいな顔しないで欲しい。

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 胸中で言い訳を並べる私を他所に、愛羽さんは玄関の左壁に設置されていた四角い板をよいしょ、と持ち上げていた。

 四角い板だと思っていたそれは、どうやら、壁面埋め込み型のテーブルだったようで、持ち上げた板の下に隠れていた支えの棒を引っ張り出せば、壁からにょっきりと直角にテーブルが生えた状態になった。

 靴を脱ぐ玄関にテーブルがなぜ、と首を傾げていたら、愛羽さんはそのテーブルに両手をぺち、と置いた。

「たぶんここに料理を置いて行ってくれるんだと思う」
「ご飯ですか?」
「そう。そっちのドア閉めておけば、店員さんと顔合わせなくて済むじゃない?」
「あーなるほど」

 納得した私が大きく頷いていると、彼女はテーブルの組み立てを崩して仕舞うと、まっすぐな壁面を再構築した。

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 靴を脱いで二つ用意されていたスリッパの片方を履いて、二つめのドアを開けた。

 そこには長い廊下が目の前に広がる。
 スケボーで滑ったら楽しいだろうなと思うくらいに長い廊下。だけど、部屋は薄暗い。

「はい、じゃあ壁にカード挿れる所あるでしょ? そこにカードキー挿れて?」

 愛羽さんが指差した先には、確かに何か機械めいたものが。
 壁にくっついているそれには、やはり細い溝があって、そこにカードキーを挿し込む。

 すると途端に廊下に灯りが点り、改めて長い廊下が姿を現す。

「広い……」
「そりゃあ雀ちゃんが選んだのは上位クラスの部屋だもん」
「え!」
「あれ、値段見てなかった?」
「どれでもいいって言われたからとりあえず気になった部屋選んじゃいました」

 すみません。と頭をさげる。
 だって、なにせここはタダで泊めてもらう部屋だ。
 だったら遠慮して一番安い部屋を選んでおくべきだった。いきなりどの部屋がいいか決めてと言われて、動揺してそこまで、考えが及ばなかった。

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「なんで謝るの?」
「え……もっと遠慮するべきだったかと思って……」

 しゅんとする私に、愛羽さんは破顔して項垂れた頭を撫でてくれた。

「大丈夫よ。どの部屋でもいいって言われたし、制限もないんだから、むしろ、しっかり楽しんで、ホテルの良し悪し見ないと。それこそ失礼になっちゃうから」

 こんな豪華なラブホの経営者なんだから、その辺は気にしない人だと思うよ、と愛羽さんが撫でた頭をぽんぽんと叩いて慰めてくれる。

 ここでへこんでいても仕方ないので、彼女の言うことを信じて、私は顔をあげた。

「ん。いーこいーこ。じゃあ立ち話もなんですし、奥に行きましょうか」
「はい!」

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 廊下の右側は全面ガラス張りになっていて、外の様子がうかがえるのだが、塀しか見えない。

 プライバシーの問題なのか、建物の構造の問題なのか、赤茶色の塀がガラスの向こうにはある。
 しかし、問題なのはその塀で見晴らしがよろしくないというだけで、ガラスと塀の間には。

「おっきいお風呂!」
「すごい露天風呂ですね!」

 3メートルかそれ以上はあろうかという大きさ。多分、私があの露天風呂にぷかりと浮かんで両手両足を広げても、愛羽さんが余裕でゆったり浸かれる大きさはある。
 そんな大きなお風呂は、露天風呂らしくきちんと石造り。
 その露天風呂に辿り着くまでは、飛び石が設置してあってその周りには、白い玉砂利が敷き詰められている。

 どうやらここは最上階らしく、露天風呂の上に屋根はない。

「ここ、夜入ったら星空が見れますね!」

 はしゃぐ私の横で愛羽さんが顎に手をあてて、うーんと何か考え込んでいる。
 あの顔は、ビジネスについて考えているときの顔だ。
 きっと、ここの設置費用はいくらだったんだろうかとか、どうやってここを綺麗に管理しているんだろうとかそういう経営者的なことを考えているんだろう。

 苦笑して、立ち止まった彼女を置いて、真っ直ぐ廊下を突き当りまでいくと、露天風呂へ出るドアがあった。

 なるほど、ここから外に出られるらしい。
 試しに開けて、飛び石を二つほど歩いて、上を見上げれば、予想通りに星が見えた。

 ただ、難を言うならば、あの露天風呂に自分達でお湯を張る時間を要するということだろう。パッとみて、蛇口が4つあるけれどそれでもあの大きさのお風呂だ。お湯が完全に貯まるまでの時間をきちんと逆算しなければいけないだろう。

 たしかに、こんなお風呂があるのなら、宿泊費が2万円というのもうなずけた。

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