※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ ひねもす 6 ~
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とん、とん、とん、とん。
近付いてくる足音に、ノックされているみたいに心臓が脈を打った。
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彼女の足音に合わせるみたいに鼓動が鳴って、一気に膨らんだ緊張で手汗がすごいことになっている。
ずり、とズボンの膝の所に手のひらを擦り付けつつ、廊下へ続く扉を見つめた。
「おじゃましまーす」
ドアの向こうからくぐもった声が聞こえて、その扉が開かれた。
姿を現した愛羽さんは、いつも会社に持って行っている鞄ではない少し大きめの鞄を肩にかけて、私をソファに見つけると、にこりと笑顔を浮かべた。
「いたいた。おかえり、雀ちゃん」
彼女の笑顔にふんわりと胸が温かくなって、それまでの緊張が少しだけ和らぐ。つられたように笑顔を浮かべて、「愛羽さんもおかえりなさい」と告げれば、肩にかけていた鞄をおろした彼女が私の隣に腰掛けた。
上機嫌な様子で「んふふ」と笑みを零して、私の顔を中々に近い距離から見つめる。
「ひさしぶり」
昨日の夕方から、丸一日。世のカップルや、それこそ遠距離恋愛のカップルが聞いたら卒倒しそうな台詞だ。
お久しぶりですと、彼女のお道化た台詞に歩調を合わせてみせると、愛羽さんは更に嬉しそうに笑みを濃くしてから、立ち上がった。
「いこっか。雀ちゃん」
立ったり座ったり忙しいひとだなと苦笑する一方で、隣に来て座るという面倒な作業をしてくれたことを嬉しく思う。
なんなら、愛羽さんの準備が整ったらケータイで「玄関まで出てきて」と指示すればいいのだ。
なのに彼女はわざわざ自宅からこっちの家まで来て、ソファに座った。
その面倒な作業をする価値が、私にはあるということらしい。
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二人で家を出て、エレベータに乗ったところで、あぁそうだ、と呟いて愛羽さんを見下ろした。
「車で行きます?」
「え?」
「ありますけど」
とスマートキーを見せると、愛羽さんの目が軽く見開かれた。
「まだ借りてたの?」
あ、そうか。そういえば、ちゃんとあの車について説明してなかったんだ。
愛羽さんの会社でトラブルが起きてまーさんから夜、呼び出しがかかったときに乗せた時は、緊急すぎて、ゆっくり説明している暇がなかったんだった。
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「しばらく預かってくれ、って言われてるんですよ、あの車。自分とこの車庫が足りなくなったから、とりあえず置かせてくれって。だからあとひと月くらいは自由に使えるんです」
1階に到着したエレベータの開ボタンを押して、愛羽さんを促す。先に出た彼女は少し考えるように「ふぅん……?」と漏らしてから、こちらを振り返った。
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろん」
免許は取得しているものの、自分の車を持っていなかった私は、絶賛、運転に慣れようキャンペーン中なのだ。
だから機会があれば運転したい。なんなら大学も車で行きたいところなんだけど、さすがに駐車場がないし、大学近くの有料駐車場に停めるのもお金がもったいないので、泣く泣く諦めているのだ。
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もう愛羽さんも車を置いている位置は覚えたようで、先導するまでもなく、駐車場を歩いて、件の車へと辿り着いた。
運転席と助手席にそれぞれが収まると、私はナビ画面を操作して、教えてもらったホテルの住所を入力する。
「それ、あとで目的地履歴から消去しておいてね?」
「へ?」
なんで? あとで、ってことは到着してからでいいんだろうけれど、どうしてそんな事をする必要があるのか。
素っ頓狂な声をあげて、不思議そうに彼女を見遣れば、少しだけ気まずそうに愛羽さんは視線を逸らした。
「人様の車のナビに、ラブホテルの履歴なんて残しておくものじゃありません」
「あ、なるほど……」
スゴイな。そんなことを咄嗟に気が付けるのは。
全く気が付かなかった。
「愛羽さん、車も持ってないのに、よく気付きましたね」
「え、あ、お、大人としての嗜みよ、嗜み」
彼女の焦りとその台詞に、ふわりと香った過去の経験。
きっと彼氏のものでない車で、ラブホに行ったことがあるのだろう。でなければ、そういう考えにはまず至るものではない。
なんだかんだ言って、愛羽さんも分かりやすい人だ。
内心軽く嘆息をついて、私はアクセルを踏んだ。
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