隣恋Ⅲ~ひねもす~ 4話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 4 ~

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 時計の音が、大きい。

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 大学の講義を終えた私が帰宅中、ケータイに入ったメッセージ。
 送り主は愛羽さん。

『お疲れさま。学校終わった?』

 それだけ。ただ確認の内容だけで、私の顔はゆるゆるになる。
 彼女に目撃されると絶対怒られる歩きスマホをしながら、返信する内容は、今帰宅中だということ。それと、彼女の仕事が終わったかどうか。

 送信してポケットに、ケータイを握った手ごと突っ込んで歩く。
 程なくしてぶるっと震えたそれを引っ張り出すと、

『わたしも今から帰るね。あと歩きスマホしないの』

 とどこかで私を見ているかのようなメッセージが。
 どうやら見なくても分かるくらい、単純な行動パターンらしい。

 既読をつけて、今度はケータイだけをポケットに突っ込んだ。
 これ以上返信してたら、帰って早々、歩きスマホについての説教を受けなければならなくなる。
 だったら既読だけつけて、帰ってから返事した方が得策だ。

 そうして家路を辿り、到着した我が家。
 大学行って講義受けただけなので、大した汚れはないけれど、一応着替えて、ソファに座る。

 ――これから……行くんだ……。

 いざこの時を迎えると、緊張しかない。
 時計の音は大きく聞こえるし、唾を飲み込めばごきゅると凄い音がする。

 手のひらにもなんだか汗をかいてきた気がする。

「……くぉぉ……これは…………物凄く緊張する……」

 音の煩い胸を掻き毟るように手をやって、ソファに倒れ込む。
 うつ伏せの状態が息苦しくて、顔だけ横を向ければ、ローテーブルに置いたケータイが目に入った。

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 家に着いたら連絡しようと思ったんだけど、それってよく考えてみると、「着きました! 早く早く! 早くラブホ行こうよ!」みたいな連絡にならないだろうか、と。

 ゲームの発売日に開店と同時にお店に連れて行って欲しい子供みたいな。

 お母さんは家事があるから9時とかに連れていけないんだけど、家事を早く済ませて行こうと、急かす子供。自分がお手伝いをする訳でもないのに、口だけ動かすような、そんな幼稚さ。

 見方や考え方によっては、そうとれなくもない。
 だから家に帰り着いても、愛羽さんにメッセージを送るのは止めておいたのだが。

「まだかなー……」

 あの時のメッセージが入った時間から計算しても、彼女が帰宅するまであと10分から20分と言ったところだろう。
 そんな時間、ゲームをしていれば一瞬で過ぎ去っていくのに、人を待っている状態だとどうしてこうも、長く感じてしまうのだろうか。

 ケータイに手を伸ばせば、催促のようなメッセージを送ってしまいそうで、それを手に取れない。
 隣の家の玄関の鍵が外れるその音を待ち焦がれて、私はソファの上で唸った。

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 どれくらいそうしていたのだろうか。
 どこか遠くで、カチャンと音がした。

 はっと気付いて起き上がると、ケータイをつかみ取る。
 時間を見れば、6時を少し過ぎたところだった。

 私はどうやら、愛羽さんを待ちながらすこし転寝をしてしまったみたいで、ケータイのディスプレイに映る自分の頬にソファの痕がくっきりと入っていた。

「うわ最悪」

 これから愛羽さんとデートなのに、なんという……。
 くっきり線のついた顔ではどれだけ頑張ってかっこつけたとしても、全然恰好良くない。

 いや別に、自分の顔が恰好良いとか思っている訳ではないけれど、こんな顔では相手をときめかせるどころでなく、笑いしかとれない気がする。

 痕のついた頬を指で伸ばそうと試みていると、パッとディスプレイに映し出されたメッセージ。

『帰ってる?』

 その一言だけで、やはり私の心臓はドクと強く脈打つのだった。

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