隣恋Ⅲ~あなたを独占したいんです~ 2話


※ 隣恋Ⅲ~あなたを独占したいんです~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 愛羽さんに手を引かれてやってきたのはベッドの上。
 これからどうなってしまうのか。
 私自身、分からなかった。

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~ あなたを独占したいんです 2 ~

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 ベッドに腰掛けた愛羽さんが私を見つめて、催促するように服の袖を引く。

「本当に……いいんですか……?」

 私の中で、これは、最後の問い掛けだと思っている。
 これで、彼女が是と答えれば、多分……もう、貴女を独占することしか、考えられなくなる。
 でもそれでいいのか? 大丈夫なのか?
 自身の行動への心配は絶えないし、大丈夫と言いきれる確信もない。

 玄関で覚えた申し訳なさは、ゆらゆらと心の中にぶら下がったまま、納め処を探して彷徨っている感じだ。

 私の問いかけに愛羽さんは可愛らしく首を傾げたと思ったら、瞳を弧にする。

「駄目って言われたいの? まだそんな事言って」

 悪戯っぽい言い方で私を焚きつけようとする彼女に、誘われる。
 軽く唆すような態度を作る土台は優しさで、そこへ甘えきっていいものだろうかと悩むが……私はどうも、自制力や忍耐力が足りない。

 挑発されると、彼女へただならぬ魅力を感じて、手を伸ばしてしまうのだ。

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 カーテンが閉まっていないだとか、まだ明るいうちだとか、シャワーを浴びてないだとか、そんなのはもう関係なかった。

 私は彼女の肩を押す。
 ベッドへ華奢な体を寝かせると、馬乗りになるよう跨ぎ、唇を求めた。

「……っん、ぅ」

 深い所まで舌を差し込むと、苦しげな声があがる。でも、滅茶苦茶にしてもいいって言ったのは貴女じゃないですか。
 胸の中で言い訳を呟けば、いやいや滅茶苦茶なんて彼女は言ってない。したいようにしてと言っただけだ。と冷静のカケラが反論する。

 まだ残っていたのか。

 冷静のカケラを一瞥する内心は、二手に別れている。
 このまま冷静さを保つのか。冷静を体外へ放り投げて思うままに欲をぶつけるのか。

「……ぅ、ん……っ」

 出来れば前者を選びたい。でも苦しそうな声にどこかで満足している自分がいる。
 私の肩や背中の服を掴んで、縋るよう引くその仕草にも、充足感が煽られる。

 ……そして更に、私を求めて欲しいと、本音を勝手に囁き込む私が、愛羽さんの下唇へ噛みついた。

「ぁ……」

 痛みはさして走っていないはず。
 流石に、感情が暴走していても、痛めつけはしない。そのくらいの分別はある。
 が、今の私はそのくらいしか、分別が出来ないとも言える状態なのだ。

 刻一刻と萎む冷静のカケラは砂粒に近い。
 無意識にも彼女の耳へ囁いてしまった”求められたい”という欲。

 改めて自分のその欲を耳にして、また改めて自覚を強くする。

 そうか。
 私は、愛羽さんに求められたかったのか、と。

 もちろん言うまでもなく、彼女を求めたい気持ちは強い。触れたい、独占したい、それは強く思う。
 だけど私はそれと同等に、いや、それ以上に、愛羽さんに欲しがられたい。求められたい。

 例の高校生などいらない。欲しいのは、求めるのは、私なのだと教え込んで欲しいのだ。

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 勝手過ぎる欲望に身を任せて、私は衝動のまま、彼女の脚の間へ膝を置く。
 ぐっと秘所へ押し付ける膝に愛羽さんの眉が寄り、キスの隙間から強めの吐息が零れだす。

 服を掴む愛羽さんの手がピクリと跳ねるのを感じながら、僅かに解けかけたキスを勝手に繋ぎ直す私を、相変わらず責めない彼女は一体なにを思っているのだろう。

「……っん、ふっ、んんっ……」

 こんな無理強いのキスで塞がれた口の端からも甘さを帯びる声が零れているが、それすら全部自分だけのものにしたくて、より強く唇を押しつけた。

 一息たりとも。
 一声たりとも。
 誰のものにもしたくない。
 私以外に、渡したくない。

 この部屋に、私と愛羽さん以外は居ないのに。
 よくもそんな馬鹿げた思考をするものだと思う。

 でも、彼女の頭を抱えるみたいに、自分の体重を肘で支えながら腕を回してしまう。
 華奢な身体に圧し掛かり、苦しくない程度には、押さえ込んでしまう。

 今まで、したことがないくらいに、荒くて、乱れて、息継ぎの間もさして与えないぐちゃぐちゃなキス。
 愛羽さんは苦しそうだけど。
 酸欠になるくらいまで、もっと、もっと、私と口付けを交わし続けて、私の唾液を飲み、私の呼気を吸えばいいんだ。

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 狂暴な気持ちが収まらないままのキスは何十秒も続き、果てには私の胸を押し返すように叩く彼女がいた。

 苦しめたい訳ではない気持ちと、苦しくなる程私を与えてしまいたいと思う気持ちがせめぎ合って、狂おしくなる。

 でも、たぶん、そろそろ限界なんだ。

 ――壊したい訳じゃない……。

 
 私は胸を押されるままに唇と身体を離した。
 瞼を開ければ、新鮮な空気を貪る愛羽さんがいる。一生懸命に胸を上下させる彼女の潤みきった目の端からは涙が一筋零れ、口元はどちらのものとも分からない唾液で濡れ、頬や耳や首あたりはのぼせたように紅潮しながら色気を纏っていて、私の昂りを余計に煽る。

 だからすぐにでも求め始めたい所なのだが、私の胸を押し返していた手が指を曲げ、ふやけた握力なりにも縋ってくるのが可愛くて、どうにかブレーキを踏み込むことが出来た。

 私の恋人は、虐めたくなるし、守りたくなるし、困る。

「……」

 じりじり痛んでいた胸がきゅんとしてから、なぜだか痛みが減っている。その変化は、まだ、ほんのちょっとだけだったけれど……それでも彼女が息を整える時間を確保してあげられたのは快挙。

 生理的な物であるにせよ、彼女の涙の跡を見ても私の中に冷静さが戻ってこなかったくらいだ。
 今の私は……壊したくない愛羽さんを壊しかねない。

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 苦し気な呼吸が落ち着いて、彼女が蕩けきった瞳を私に向けた。
 うるうるで、とろとろで、見下ろしているだけでも身体が疼いてくる瞳は毒に近い。

 これは猛毒だ。だから、毒に侵されたせいで、私は乱暴になってしまうのでは?
 そんなお門違いな責任転嫁を恋人の魅力に押しつけている私を、見上げていた愛羽さんが口を開く。

「……こんなキス……雀ちゃん出来たの……?」

 信じられないというような響きの声で、愛羽さんは言ったが……。

「こんなキスって?」
「だから……」

 あの……、と口をもごつかせる彼女は、一瞬伏せた視線で私の口元を捉え、ハの字眉を作りながら再び目と目を合わせる。

「陳腐な言い回しだけど……息も出来ないくらいのキス……みたいな」

 そういう歌詞の歌、あると思うけど。なんてどうでもいい事が頭を掠めたが、今はそんな歌のタイトルなど思い出さなくていい。

「もっと、して欲しいですか?」

 私の強制的な響きの問いかけに、愛羽さんの顔が少し、引き攣る。

 ああ内心焦っているんだろうなと察しながらも、助け舟を出す気にはなれない。
 もう一度、さっきみたいな乱暴でも気が狂いそうな激しいキスがしたい気分だから。

 そのくらいに、私は愛羽さんが好きだと思っているから。

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 結局、しばらく助け舟も出さぬままに困った様子の彼女を眺めていたら、意を決したのか愛羽さんは小さく顎を引き、

「さっきのよりもっと激しいのして」

 と、どこか男らしく言い切り、自ら私を引き寄せてキスをせがんだ。

 ――負けず嫌い。

 彼女に覆い被さりながら、私は胸の内で笑む。

 意地の他に何を抱えて誘ったのかは知らないけど……貴女の思い通りには、いきませんから。

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 先程のキスは噛みつくように唇をぶつけ、舌が抜けるのではというほどに吸い、もうこれ以上は限界だと思うくらい息継ぎも許さないキスだった。

 それとは全く対照的なキスを、今からする。
 そんな私の考えを愛羽さんが知る由もなく、どこか挑戦的に身構えている彼女の唇をそっと奪う。

 柔らかく、いつまでも触れていたいと思わせる愛羽さんの唇は先程のキスで濡れ、つるつると滑る。その滑りを利用して、撫でるように唇同士を擦り合わせていく。
 ぬるりとしたその感触はいつものキスとは違い、妖艶な雰囲気を醸し出すけれど、決定的な快感は生み出さない。

 薄く開いた唇から小さく出した舌先で愛羽さんをちろと舐めれば、すぐに彼女の唇は緩み、薄く開く。

 そこへ私の舌を捩じ込むことはいとも容易いが、そうはせず、チロチロと上唇を擽るように舐めてやる。
 その「入ってきそうで入ってこない舌」というのは、なんとももどかしいもので、自ら舌を絡めにいってしまいたくなる心が大きくなったのだろう。

 愛羽さん自らが、私の舌を迎えに来て、ぴちゃりと音を立てた。

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「……ん……」

 鼻から抜く声を彼女は漏らし、私の舌を丁寧に舐める。
 色気と可愛さを混ぜた動きでゆるゆると這う熱に、胸が疼く。正直、舌を動かしたい。応じたい。柔らかくも熱い舌や口内を堪能したい。

 けれど私はゾクリとする背筋を無視し続け、全く舌を動かさずに彼女のしたいようにさせた。
 おずおずと私を愛撫する彼女が、どれほど犯してくるのか見てみたかったし、どれだけ私を欲しがってくれるのか、知りたかったのだ。

 ……が。

 あまり時を置かず、焦れた彼女が私の服を引き、催促した。
 薄目を開けて、もどかしさに耐える恋人の表情を窺えば、切なげに寄せられた眉が色っぽい。

 ――かわいい。

 もっと、いじめたい。
 そんな想いで引き続き私が動かないでいると、愛羽さんは一度丁寧に舐めた私の下唇に、噛みついた。

 下の方では、愛羽さんの意図があるかないかは不明だが、膝に切なそうな腰がすり寄っている。

「……いじわる、しないで」

 牙を離した恋人に小さく言われて、笑みが零れる。
 どうして彼女はこんなにも可愛いのか。

「きて」

 髪の中へ指を差し込まれ、引き寄せられた。
 私の心臓を痺れが襲い、切ないくらいにゾクゾクと身体が快感を浴びている。

「ちゃんと、して?」

 唇が重なる寸前にかわいく促され、「ちゃんと、ってどういうものですか?」と訊き返す意地悪をどうにか抑え込む。
 すぐ、そういうかわいくて、虐めてやりたくなるコト、しないでほしい。愛羽さんはすぐ、そういう毒を振りまくんだから。

 口を尖らせたくなるけれど、私はそういう愛羽さんの毒が好物でもある。
 かわいくて、可愛くて、「あーもう!」と言ってしまいそうになる感情を引き起こす貴女が好きで堪らない。

 私は胸中で「好きです」と告白しながら、ゆっくりと口内に進入させた舌で、待ちわびていた彼女へ挨拶をする。
 ヌルヌルと滑る原因である唾液を絡めるよう先端同士を馴染ませて、息継ぎの間に引き抜いた舌で「愛羽さんはあんまり動かなくていいですからね」と言い置く。

 そんな不意を突く頼み事に目を開けた愛羽さんへ微笑んで、再度重ねた唇。
 数度啄んだあとは舌同士を絡め、音をたてて吸い、歯列を撫で、上顎をくすぐり、頬を舐めた。

「もうすこし出して」

 頼みに応じてくれた舌をしつこいくらいに同じ物で撫でてから離れると、うっすら目を開けた彼女は、息も絶え絶えだ。
 はふはふと忙しなく浅い呼吸や、ぱたりと顔の横へ投げ出された半開きの手のひらが、かわいい。

「だから……こんなキス……雀ちゃん出来たの……?」

 再び、信じられないという響きで言うので、私は悠々と目を細めてやる。

「ほかにも出来ますけど、どうします?」

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