隣恋Ⅲ~あなたを独占したいんです~ 1話


※ 隣恋Ⅲ~あなたを独占したいんです~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


2話→


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 荒い呼吸に引き連れられて、掠れた声が小さく漏れた。
 昂った様子は自分でも驚くくらいに、貴女が欲しくてたまらなくて、堪えることすら、出来そうにない……――

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 ~ あなたを独占したいんです 1 ~

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 少し距離はあるけれど、ショッピングモールが新しく出来たらしいから二人で行ってみよう。

 どんなお店があるかな?
 どんな買い物ができるかな?

 例え気に入るものがなくて手ぶらで帰宅することになってもきっと楽しいデートになる。

 そう疑いもしなかったデート。
 ショッピングモールへ向かう電車の中、私の隣へ立っていた愛羽さんが、学ランの高校生にいきなり腕を掴まれて、こう叫ばれた。

「すっ! 好きです! 付き合ってくださいっ!」

 なんで休日なのに学生服をきているのか。
 なんで考え無しに電車中の視線を集められるのか。
 なんで真っ赤になりながらも愛羽さんから視線を一切外さずに見つめていられるのか。
 なんで……愛羽さんを好きになったのか。

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 自分よりも背の高い彼を愛羽さんが見上げたまま、面食らったよう固まっていたのは数瞬。
 瞬きを数回してから、彼女は困ったような表情に変わった。

 ちら、とこちらに視線をやってから、目の前の学生服の男子に言う。

「ごめんなさい。わたし、大好きで付き合っている人がいるからあなたとは付き合えません」
「そっ、そうですよね! そりゃそうですよね! すみませんでしたっ!」

 嵐のような彼は、ちょうど開いたドアから飛ぶようにして降車し、同じ車両から降りていた学ランの集団の元へと駆け込んだ。肩を叩かれたり、背中を撫でられたりする様子を見るに、どうやら、あのグループ内では、彼が愛羽さんへの好意を抱いていた事実は周知の物だったらしい。
 囃し立てられた結果の行動か。それとも自発的な行動か。
 どちらか判断はつけられなかったけれど、どちらだとしても、迷惑。

 車内に残された愛羽さんが注目を浴び続けていて、不快だ。
 ざっと目を走らせて、空いている席がないと分かると、私は愛羽さんの背に手を添えて、隣の車両へ移るように促した。

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 あんな閉鎖的な場所で注目を浴びていたくなかったのか、愛羽さんは素直に隣の車両に移ってくれた。
 けれど、私の頭の中は、よくないと思うもののドス黒い感情でいっぱいだった。

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 それから到着したショッピングモールでの買い物も、おいしいランチを食べる間も、表面上は繕えてもやはり……どうも、気乗りしなくて。

 予定よりも早々に家へ帰ってきてしまった私達は、マンションのエレベータからより近い愛羽さんの家へ上がり、私は玄関で、彼女の腕を捕まえた。

「……そう来ると思ったけど」

 少し驚いた顔をした愛羽さんは、半瞬後には表情を崩し、私の首へ腕を回した。

「いいよ?」

 それが、何を指す「いいよ」なのか。
 私の解釈が間違っていたらどうしよう、だなんてこと、カケラも考えられなかった。

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 ――冷静じゃない。

 自分をそう分析できるけれど、玄関の鍵を掛け様捕まえていた腕を引き、愛羽さんを壁へ押しつける。
 一人暮らし用のマンションの玄関はそこまで広くなくて、いつもならば一人が靴を脱ぎ、スリッパに履き替えるまで大人しく待つのに。
 無理に押し入ってより狭くなった空間で、彼女の自由を奪うような体勢で唇を奪う。

 ……我慢が、出来ない。

 ショッピングモールで買い物していた時から――いや。違う。……あの高校生が愛羽さんへ告白をした直後からずっとずっと我慢していたものが腹の底から噴き出している。まるで火口から噴いた溶岩だ。降ってくる火山弾が心臓の辺りに散らばって、突き刺さり、じくじくする。

 こんな汚い、ドロドロの感情を彼女にぶつけるのは、良くない。それこそお門違いだ。分かってる。
 けど、我慢できない。

「愛羽さん」

 どうして自分の声はこんなに切羽詰まっているのだ。

「愛羽さん……っ」

 捻じ込むように彼女の口内に舌を入れてしまうのだ。

 どうして。

 こんなにも我慢が出来ないんだ。

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 私の無作法なキスが、二人を荒い呼吸に追いやっていくのにも関わらず、愛羽さんは依然、私の首に腕を絡めたまま。

 抵抗しないのか。
 苦しくないのか。

 自身が彼女へ苦痛を与えていると考える脳は辛うじてあるのに、止められない。
 嫌がるどころか愛羽さんが、私の髪をかき乱すように指を挿し込んで撫でたり、抱き締めたりしてくれるから。

 ――……なんで……。

「嫌じゃ……ないんですか」

 ドロドロした感情の果てに選んだ行為だ。
 こんな気遣いもない荒々しいキスが。
 こんな場所での行為が。

 ――あなたは嫌じゃないんですか。

 唇を離し、みっともなく荒い息のままに問うと、愛羽さんはとけた瞳で私を捉えた。

「欲しいんでしょ? わたしが」

 9割方、決めつけられた問いかけ。それに伴う、視線。
 挑戦的で、挑発的。
 焚きつけるような愛羽さんに、私の中で、何かが弾けた。

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 そうです。
 私は貴女が欲しい。誰にも取られたくない。

 あんなふうに告白してくる学生が、何度、貴女を電車で見かけていたのか。
 何度、貴女と自分が付き合う事を想像したのか。それを考えるだけでも腹立たしいほどに貴女を独占したいと思っている。

 器の小さい人間だとも自負している。
 もっと大きな人間にならなければ、愛羽さんと釣り合わない。
 そう思うのにも関わらず、今、すでに、独占欲を叩きつけるような行為を止められないでいる。

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 いつ再会させたか分からないキスは、やはり乱暴だ。
 こんなの駄目だ。優しくゆっくりしないといけない。

 そう思うのに、止まれない。抑えられない。
 少しでも求めるキスを途切れさせたら、ドロドロに飲み込まれそうだ。火山弾による痛みで貴女の細い首へきつく歯を立ててしまいそうだ。

「愛羽さん……」

 欲しい。欲しくて仕方ない。
 触れたい。独占したい。
 他の誰にも、見せたくない。自分だけのひとであってほしい。
 例えあの高校生の頭の中だけの妄想にも、愛羽さんを渡したくない。

 思い出すだけで、眉間の皺が深くなる。
 閉じた瞼の奥が痛いくらいに熱くなる。

 嫌な光景の記憶から逃げたくて、舌を無遠慮に深く捩じ込んで、更に壁に押し付ける。
 そのとき私は、彼女を動けなくさせたかったのか。それとも、自分を受け止めて欲しいのか。どちらを求めて行動しているのか、自分でも理解できていなかった。

 背の低い彼女を囲い込み、上から覆い被さるようにキスをした。
 身長差のせいで、ぐっと顎をあげている彼女にすれば、遠慮も気遣いもなく押し入ってくる舌は、きっと苦しいものだったのだろう。
 喉の奥で呻くような声が微かに耳へ届く。

 それによって夢中だった私に、ひと欠片の冷静さがコロンと投げ込まれた。
 押し込んでいた舌を引きながら瞼を開けると、穏やかではない表情が、そこにはある。

 ――ごめんなさい。

 そう思ったのに。思えたのに。

 ドロドロの感情が邪魔をする。じりじりする痛みが、全然、引いてくれない。

「あいはさん……っ」

 切羽詰まって、いっぱいいっぱいな自分が嫌だ。
 彼女の呼吸はあがり、苦しそうなのに、止めてあげられない自分を殴りたい。

 そう考えはするのに、欲求が止まらない。
 

「……がまん、出来ない、です……」

 訴えるような声が、キスの合間に、零れた。
 泣きそうな声音が、情けない。

 コントロールできない自分の情けなさが浮き彫りになってくると、次のキスにも行動が移せなくなって、俯くように動きを止めてしまうと、愛羽さんは少し笑った。

 ……やはり、小さい人間と思われてしまったようだ。

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 まぁ……それは当然だ。
 こんなめちゃくちゃな事、するような奴だもん。

「馬鹿」

 
 ウン。仰る通りです。と萎れる私の額へ、彼女の柔らかい唇が触れた。

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 ふっ……ふっ……、と未だに整いきっていない呼吸をする唇は、額へくっついたまま「雀ちゃんのお馬鹿」と言ってきた。
 言い方も、声音も、彼女が怒気を纏っていないのだと教えてくれて、よりいっそう、申し訳なくなる。

 自責の念がドロドロとじりじりをなんとか抑えてくれたので、助かったとは思うものの、だけど、こんな状況になってしまって、否、私がこの状況を引き起こしてしまって、本当に本当に、申し訳ない。

「ごめんなさい……」
「ん。いいよ」
「すみません……」
「そう思うなら、1ついう事聞いて」
「1つと言わずにいくらでも聞きます……」
「じゃあ2つ聞いて」

 はい……、とあまりの情けなさに小さくなりながら返事をする。

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 ぴ。と愛羽さんの人差し指が立った。

「ベッドまで我慢」

 ぴ。と愛羽さんの中指が立った。

「滅茶苦茶になってもいいから抱いて、雀ちゃんの気持ち教えて」

 さすがに、玄関はちょっとね。靴も脱いでないし、とおどける愛羽さんの首元から俯いた視線を動かせないまま、私は彼女の言葉に目を見開く。

 動けないでいると、愛羽さんの腕がゆっくりと解けて、私の髪を撫でた。

「そりゃあね? 自分の恋人が目の前で告白受けて喜ぶ人いないと思うわよ?」

 こんな私を撫で続けながら、愛羽さんは笑う。

「それに前言ったでしょ? 告白されたり見られたりする事で女を磨けるって。それをしてるわたしはやっぱり、伴う責任があるの」
「責任……?」
「そう。そんなわたしの恋人でいてくれている人のこと、ちゃんと分かってあげること。受け止めてあげること」

 だから、と優しい声で愛羽さんは続けた。

「わたしのこと、雀ちゃんのしたいようにして?」

 視線をあげれば上目遣いで、こちらを覗き込むような彼女と、出会った。

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2話→


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