隣恋Ⅲ~ブラジャーの日 後日談~ 4話


※ 隣恋Ⅲ~ブラジャーの日 後日談~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ばか、と罵る声は……震えた。

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~ ブラジャーの日・後日談(2019年加筆修正版) 4 ~

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 わたしが見上げた雀ちゃんの瞳が、一度、大きく揺れたのは見えた。
 それが、どういう心境の変化なのかは察せなかったけれど、彼女を見上げるわたしの行為が、何かを引き起こしたという事は理解できた。

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 わたしの首を這う人差し指が、す……と、肌の上から感触を消した。
 その行先は、僅かな領域を覆う布地の上。その布越しに肌を押される感覚にどきりとする。
 だって、布地が覆うのはわたしの胸。

「……ぁ、っ」

 敏感な胸の頂きには、まだ触れられていない。けれど、限りなく近いその位置を、彼女の人差し指は行ったり来たり彷徨っている。
 確実な場所へ、確実な刺激を与えられてもないのに、喘ぐだなんて。どれだけこの下着ひとつで、気持ちが昂っているのか。

 その事実をも突き付けられたようで、わたしは下唇を噛む。
 自分が、こんな刺激的な下着を身につけて羞恥よりも欲情が勝ってしまう性欲の持ち主なのだと、認めてしまいたくない。

 けれど、雀ちゃんのその指がくるりくるりと円を描いて、決してその頂きに触れない事をもどかしく思っているのは……事実。

 わたしは爪を立てるかのようにシーツを再度、握り直した。

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 わたしの中で、欲望と、羞恥心が戦っている。
 その葛藤は余計、自身の昂りを増すだけのものと気付けばいいのに、それも出来ず、わたしは震える息を吐く。

「欲しいって」

 いつにも増して、言葉の少ない雀ちゃんが、口を開いた。
 静かに、穏やかに、甘い言葉をその唇から紡ぐ。

「言えばすぐにあげるのに」

 何を。
 だなんて野暮な事は聞かずとも分かる。

 今のわたしが求めて、焦がれているもの。
 貴女からの、快感。

 それが欲しくてたまらない身体なのに、わたしはその一言が、僅かに残った理性と羞恥心で、告げられないでいる。

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 目の前のひとは、明らかに、わたしが欲情していることを理解しているのに。
 たった一言言えば、彼女はわたしを余す事なく可愛がってくれるというのに。

 その一言が、告げられない。

 葛藤が、わたしの口を重くしている。

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 欲しい……のに。
 自分でも欲しいと思うのに、言葉が、出てこない。

 恥ずかしくて、はしたなくて、欲しくて、切なくて。

 それでも紡げたのは貴女の名前。
 掠れた声で、小さな声で、呼んだその名前は、わたしの好きなひと。

「……雀ちゃん……」

 虚ろに彼女の服を眺めていた視線をゆっくり持ち上げて、彼女の瞳を見つめた。
 わたしの声が届いたとき。視線がぶつかったとき。彼女の瞳はやはり、大きく揺れる。

 目が合うと何かあるのだろうかと疑問が過るものの、大好きなひとの名以外を紡げずにいるところで、さっきまで冷たいと感じる程にサディスティックな色をしていた雀ちゃんの瞳が、とろりと溶けた。

「根競べは私の負けですね」

 その変化に軽く目を見開いていると、雀ちゃんは一旦人差し指を離して、わたしの足元のフローリングに片膝を着いた。まるで、小さな子どもと目線の高さを合わせるみたいに。

「愛羽さんが可愛いくて、ちょっと我を失ってました」

 照れくさそうに、でもバツが悪そうに言う彼女。

 それはどこからどう見ても、いつもの雀ちゃんで、多分、わたしがこの格好で科を作れば真っ赤になる事だろう。
 そして何より、さっきまで恥ずかしくてそんな事も出来そうになかったわたしにいつの間にか余裕が生まれていて、いざやれと言われたら科を作るのは簡単に出来てしまえそうだ。

 ――……雀ちゃんが、この場の空気を、変えた。

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 わたしの心や余裕まで支配して、すべての雰囲気を形成したのは……雀ちゃん。

 その事実を理解した途端、わたしの心臓は、さっきよりも速く打ち始めた。
 だって、彼女の意向一つで、わたしは意識さえも変えさせられてしまうのだ。

 例えばの話、雀ちゃんが上手くやればわたしがこの格好にコートだけ羽織って痴女のように街を歩く、なんて行為をさせるのも可能なのだ。

 いや……! 待って待って待って……!
 それは突飛すぎる。話を飛躍させ過ぎたわ。

 で、でも、今さっきその片鱗をまざまざと体験させられたばかりで……。

 もうほぼ、混乱状態。
 自分の考えが随分、常軌を逸している事にも気が付けずにぐるぐると考えを巡らせてしまっているわたしの前で、雀ちゃんはこてん、と首を傾げた。

 ――……あ。いつもの。

 彼女の仕草を目にして、コトリと自分の中で何かが落ち着いた。
 たぶん、いつもの彼女に、安心したのだと思う。  

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 動揺と、混乱をしていた頭がすっと冷えて、それまで考えを打ち消していく。

「愛羽さん?」

 わたしは百面相でもしていたのか、すこし心配そうに雀ちゃんがこちらへ手を伸ばしてくる。
 その手が触れるよりも先。

 わたしは彼女へ抱き着くと同時にフローリングへ膝を着いた。

「ちょ!? あ、愛羽さんっ?」

 焦った声が耳元であがる。
 そう、これよこれ。
 雀ちゃんはこういう反応してくれなくちゃ。

 先程までの彼女を思い出すと、ぷるりと震えた。

「ばか」
「え?」

 聞き返すように、雀ちゃんがこちらを向こうとする。
 けれどわたしは抱き着いたまま離れず、彼女の耳朶に囁いた。

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「……ちょっとだけ。怖かったかも」

 蔑むとまではいかなくとも、鋭い目で、サディスティックに見下ろして、言葉少なくわたしに相対していた雀ちゃん。
 完全に嫌だった訳ではない。いつもとのギャップ差に、ときめきもあった。
 自分の趣味ではない下着を着させられ、意地悪な事を言われ、興奮しなかった訳ではなかった。

 けど……。

 場の雰囲気までもがガラリと変わって、突然、自分の許容範囲以上の……例えば生着替えとか。させられすぎたのかもしれない。 

「……ばか」

 もう一度、彼女に罵る言葉を浴びせたわたしは少し、涙声だったかもしれない。

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