※ 隣恋Ⅲ~ブラジャーの日 後日談~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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「今すぐ、それを着てください」
「ま、また今度じゃだめ?」
「駄目」
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~ ブラジャーの日・後日談(2019年加筆修正版) 2 ~
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キッパリと言い切られて、見下ろされて。
抵抗、出来なかった。
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顔から、火が出る。
この言葉はこういう感覚だったのか。
そんな感想を頭の中に吐きながら、鋭い目付きの恋人の前で、衣服を脱いでゆく。
どうしてこうも、彼女に主導権を簡単に握られているのか理解できない。
でも、逆らえない空気なのだ。
わたしが微笑んで首を傾げるだけで、顔を赤くする普段の雀ちゃんは、ここにはいない。
居るのは、狩りをする獣のような鋭い瞳をもち、獲物であるわたしを見下ろしているひとだ。
そして。
獲物であるわたしは、羞恥心に気をおかしくしながらも、そのひとの言葉の先にある快感を密かに期待している。
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でも。
恥ずかしいものは恥ずかしい。
ぱぱっと脱いで。ぱぱっと着る。
なんて無理。
もたつくわたしに、雀ちゃんは一言。
「愛羽」
ただ、名を、呼んだ。
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……それだけで、心臓が、跳ねる。
たかだか、名前を、呼び捨てられただけで。
今まで幾人もから、そうされた経験はあるのに。
このひとに、たった1回。
たった三文字紡がれただけで、全身を巡る血はその速さを増した。
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待って、とは言えなかった。
手伝って、とも言えなかった。
この場の、雀ちゃんが作り上げた不思議な空気に、呑まれていたから。
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裸でいることよりも、この小さな布を身に纏う方が、恥ずかしいだなんて。
天井の照明が煌々と照りつける中、わたしは全ての衣服を取り払った。
そんな異常状態なのに。
さらに、こんな。自分の趣味でもない下着を身に着けなければいけない、超異常事態。
――なんでこんな事を……。
と思う。
…………でも。
肌が焦げそうなくらい熱い視線を送ってくる恋人が、わたしを強く求めてくれている。
その感覚は…………言葉には成し難いが、……女としての快感が溢れてくるのだ。
小さな布地に紐が付いただけのそれ。
既に両脇の紐は蝶々結びが成されているから、わたしはそれを手に取って、ベッドに腰掛けたまま、脚を通す。
部屋に存在しているのは、ベッドの軋む音と、シーツの擦れる音。
自分の立てているそれらを聞きながらわたしは、はたと気付く。
腰を浮かせないと、きちんとこのショーツを履くことができない。
このひとの、前で。
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わたしの戸惑いを手にとるように理解しているのだろう。
ベッドのすぐ傍まで詰め寄っていた雀ちゃんは、そこから少し距離をとる為に退がった。
わたしが、立ち上がれるスペースを確保するためだ。
目を見るのも恥ずかしかったけれどそれを圧して、チラと彼女を見上げると唇の端を吊り上げて笑われた。
「……」
その笑みすらも、いつもの彼女の笑い方とは少し違う意地悪なもの。この状況を楽しんでいる彼女に恨みの篭った視線を送りたい。
でも。
普段と違った意地悪な表情にさえ、すこしときめいてしまう自分がいて。
――……ほんとに……どうしちゃったのよ……?
それは、己に対しても、彼女に対しても零した心の声だった。
いつもはこんなに意地悪じゃないのに。
いつもはこんな恥ずかしいこと、出来やしないのに。
二人とも、この状況を心から嫌がっているだなんて、思えない空気。
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ええいもうっ、と声に出さず、心の中で気合いを吐き、わたしはベッドから立ち上がる。
もう自分は全裸なのだ。
そこからもたもたしていても、逆に恥ずかしいだけ。
両脚を通したショーツを手早く引き上げ、両サイドの紐を丁度良い長さに締め直して、やはり布地の少ないブラジャーを取り上げて、肩紐を腕に通す。
ここまでくると普通の着替えを雀ちゃんの前でしているような作業だけれど、もう、この恥ずかしさに耐えられなくなってきたんだもの。
仕方ない。
なんとか自分を納得させて、ホックを留めようと後ろに手を回したわたしだったけれど、それはどうやら、考えが甘かったみたい。
目の前に立つその人は、羞恥心から逃げ始め、ただの着替えをし始めたわたしに面白くなさそうな目を向けて、こちらに手を伸ばしてきた。
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その手が捉えたのは、さっき結んだばかりのショーツの腰紐。
え? と思った時には、しゅるりと解かれて結ばれている片紐だけがひっかかって辛うじてそこにある状態になった。
「ちょ……っ」
何するの、と背中のホック留める作業を一旦放置し、膝を曲げ、前屈みになりながら解かれた腰紐を押さえる。
突然のイタズラに焦っているわたしを楽しそうに眺めて、「駄目ですよ、ちゃんと結ばないと」とか言ってくる雀ちゃん。
――……自分が、解いたくせに。
完全にからかわれてる。
こぶ結びにでもしてやろうかしらと思ったけれど、そんなことをしたら後で何倍にもなって返ってくる。
喉奥で唸りながら腰紐を蝶々結びにすると、わたしは悪戯防止策として、ベッドに腰掛けてから背中のホックを留めた。
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そうするとすぐに手を伸ばせなかったようで、悪戯できなかった雀ちゃんは少し悔しそうな色を瞳に乗せた。
ふん、大人をからかうからよ。
心の中だけで言い返してやりながら、布の少ない下着の位置を整える。
改めて、だけど……やっぱり、布地が少ない。
どこからどう見ても辛うじて隠せている状態で心許ないこと、この上ない。
そんなものを纏うハメになったのも、全部、まーのせいだと頭の中で彼女にチョップしていると、ジリジリと肌を焦がすような視線を感じる。
そんな視線を送ってくるのは、この部屋に一人しかいない。
「……なに」
不愛想に言うけれど、恥ずかし過ぎて、彼女の目を見れない。
雀ちゃんがわたしを見ているのは、焦がす視線と気配でなんとなく察知できるから、余計、恥ずかしさが増していく。
「言う通りにしたんだから……」
だから早く、脱がせてよ。
これなら着てない方がマシだわと思うも、彼女は舐めるようにわたしの身体へ視線を這わせて、眺めて、悦に入っている。
――ああぁ……もう。
顔が熱い。
身体も。
心臓も。
異様なくらい全部。
ぜんぶ。全部、雀ちゃんに火照らされる。
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