※ 隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 湯冷めた頃に 28 完 ~
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「それで?」
首を竦めるわたしに向けられる視線は怒っていない。むしろ少しだけ楽しそうな気配だ。
「一体何を、まだ、隠しているんですか?」
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しまった……。
わたしの我侭、なんて言葉を使わなければよかった。
そんな事を今更悔いても仕方ないのだけれども、温泉旅行の時の一件を謝ることができて、なんとか一件落着しかけていたのに。と思うと下唇を噛みたくなる。
いい年して、恋人の初めてが欲しくて法律違反させました、だなんて格好悪くて伏せていたのに。
しかも。
しかもだ。
家では飲酒しているのは知っていたけど、それ以外の場所ではお酒を飲んでいないと思い込んでいたのに、実はそうではありませんでした。だなんて、もう本当に恰好悪すぎる。
考えてみれば、今時大学生が二十歳以下でも飲酒しないだなんて、なかなかの低い確率だ。
新歓だってあるし、サークルの飲み会だってあるだろうし、友達と普通にご飯だって行くだろう。そして若気の至りというやつが必ずついて回る年頃だ。
外で飲んでいない訳がない。
ちょっと考えればそのくらいの事、予想がついただろうに、わたしは何を思ったのか、一緒にご飯を食べるときに、わたしの前では必ずアルコールを断る彼女だけを信じ込んで、言葉は悪いけれど、騙されていたのだ。
別にそれを怒るつもりはないけれど、自分の単純すぎる思い込みがすこし、悔しいのだ。
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催促するよう首を傾げる雀ちゃんの前ではもう、逃げ切れそうもない。
「あの…ね」
「はい。なんでしょう」
「笑わないでね?」
「うーん。努力はします」
ここで、「絶対笑いません」と約束しない所が雀ちゃんらしい。
そんな彼女に小さく笑って、わたしはやっと、観念した。
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「さっき雀ちゃんに聞かされるまで、雀ちゃんは二十歳になるまで外でお酒は飲まない人なんだって思ってたのね?」
「はい」
「だから……その、外で一緒にお酒を飲む……初めての存在になりたかったって言うか……一番最初を独り占めしたかったって言うか……あの、ね? わかるでしょう?」
しどろもどろ。視線は泳ぎすぎな程に泳ぐ。
雀ちゃんの顔もまともに見れなくて、わたしは説明することを投げ出して彼女に理解を求めた。
ああもうほんと、自分が格好悪い。
これが社会人で7歳も年上の人間がやることかと思うと、顔から火が出そうだ。
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「……」
「……」
部屋に、静寂が横たわる。
カチ、コチ、と時計の針の音だけが耳に届く中、わたしはやっぱり雀ちゃんの顔を見れないでいたけれど、あまりに雀ちゃんが何も言ってくれないものだから、上目遣いに、ちらっとだけ、様子を窺うことにした。
「な、んで雀ちゃんが真っ赤なの」
まるで林檎のようなと言ってはありきたり過ぎるか。
でも、その言葉がしっくりくる程に、彼女は頬を赤く染めていた。
予想と全く違う反応にわたしは驚いて、自分の羞恥も忘れて彼女をじっと見つめた。
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「あ、や……その」
さっきとは立場が逆転して、真っ赤な顔に手の甲を押し当てて隠す彼女は、しどろもどろだ。
「愛羽さんが……可愛いすぎて」
「可愛くないけど……なんでそこで雀ちゃんが照れるの」
「可愛い過ぎて」
はぁ? と思うけれど、目の前で真っ赤になっている彼女がいるのだ。たぶん、本当にわたしが可愛いと思って、頬を染めているのだろう。
その思考回路はわたしには理解できないけれど。
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「あの、愛羽さん」
顔の前から手を退けた雀ちゃんが、こちらを見る。
「キスしていいですか」
い、いいけどそんな何かこうぐっと来るものがあったの? 聞き返そうと口を開く前に、雀ちゃんが動いた。
「てか、させてください」
「ぇ、んっ」
早い。そして、なんだか熱の篭ったそれに、先程行為を終えたばかりの身体が若干の反応を示す。
今はそんなときではないと分かっているのに、そうした反応を示す自分の身体がなんとも言えず、されるがままになった。
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「外見ももちろん可愛いんですけど、精神的に可愛すぎますよ。愛羽さん」
「……可愛くないって」
外見も内面も、可愛い訳ないでしょう、と首を振るけれど、興奮に潤んだ瞳はそれを頑として拒否する。
「可愛い。もうほんと、可愛いです。抱きたい」
「なっ、さ、さっきしたばっかりじゃない」
「でも愛羽さんが可愛いからまた抱きたくなったんですもん」
「だから可愛くないってば」
言ってるでしょ、と続けて言えなかったのは、雀ちゃんがわたしの唇に人差し指を押し当てたから。
こちらを見つめる瞳でさえ、「貴女は可愛い」と訴えてきていて、視線を合わせていられなくなる。
逸らした視線に、小さく笑った雀ちゃんはゆっくりとわたしを抱き締めて、耳元で囁いた。
「私の前以外で、そういう可愛い事言わないでくださいね」
抱き締めてくれる腕も、どれだけ否定しても可愛いと言ってくれる唇も、嬉しいくせに、自分が可愛いと受け入れられずに、わたしは彼女の肩口に額を擦りつけた。
彼女の人生の中で、「可愛い」と言う回数が一番多い人になりたいと願いながら。
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隣恋Ⅲ~湯冷めた頃に~ 完
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