隣恋Ⅲ~酔うに任せて~ 16話 完


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 酔うに任せて 16 完 ~

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「………………あれ?」

 目を開けた私は、第一声そう漏らした。

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 仰向けだ。
 私は仰向けに寝転がっていて、この天井は自分の部屋だ。

 目だけ動かして、視線を左右にふってみると、うん。確かに自分の家だ。

「……いつ、帰ってきたんだっけ……?」

 寝起きで掠れた声だと認識すると同時に、猛烈な喉の渇きも感じる。
 お茶でも飲もうと、いつもの調子で普通に体を起こす。とその瞬間、頭が割れるんじゃないかと思う頭痛が私を襲った。

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「~~~~っ…………」

 声も出せなくて、起こしかけた体は、痛みのままに再びベッドに逆戻り。
 ばふ、と倒れ込んだ後頭部から、また凄まじい痛み。

 頭の中に大きい石があって、それが内側でゴロンゴロン転がり、頭蓋骨にぶつかる度に痛みの波紋が広がっていく。

 ……これは……完全に二日酔いだ。

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 待て待て。だけど、蓉子さんの所では飲んでない。
 いや、飲んでいないっていうか……うーん……。

 まぁ……ここだけの話、蓉子さんが作ってくれる”オリジナルドリンク”にはアルコールが仕込まれていると、密かにいつも思っているのだが。

 「酔」でも言った通り、私はまだ19歳。
 だからお酒は飲めない。

 そりゃあ家では瓶ビール飲んだりするけど、それってどこの家でもお父さんのビールを横から貰って飲んだり、とか、ままある事だ。

 だけど未成年がお店で飲むと、それはそれは厳しい処罰が発生する。その店にも、飲んだ本人にも、周りに居た人にも。

 だからいつも外では「お酒飲めません」と言う。それは「酔」でも同じこと。
 で、登場するのが蓉子さん特製”オリジナルドリンク”だ。

 アレを作るとき、蓉子さんは必ずバーカウンターで私から見えない低い位置でドリンクを作る。
 曲りなりにもバーテンダーとして私は働いているし、隣に居たのは店長だったし、ボトルを見るだけで、大体何を作っているのかは判断がつく。

 だからそんな私達に見えないように、いつも彼女は”オリジナルドリンク”を作る。

 今の時代、ノンアルコールっぽいのにお酒だったりする物もあるし、その逆だってある。
 だからはっきりとした事は言えないんだけど……「酔」で”オリジナルドリンク”を飲んだら、ふわふわするのだ。

 あれがアルコールなのかもしれないし、ただのノンアルで私が雰囲気で酔ったような感覚になっているのかもしれない。
 人間、思い込みだけで酔えるというし。

 それに蓉子さんは、ドリンクを出してくれるとき、その名前を絶対に言わない。
 カクテル名はもちろん、カクテルなのか、ノンアルコールカクテルなのかも、言わない。

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 ……いやまぁどっちにしても、昨日は「酔」でそんなに飲んでないしなぁ……。

 でも、「酔」から出たあと、どうしたんだっけ……?

 記憶の糸を手繰り寄せながら、ゆーっくり起き上がる。
 出来るだけ、頭を動かさないよう、揺らさないよう。

 時間をかけて体を起こして、ベッドに腰掛ける。
 そこで目の前に広がったのは、缶ビールの山だった。

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「うええ……?」

 いや、山といってもまぁざっと見て20本くらいだが。いや20本もあれば山と言うか。

 そのほとんどは、シンクの中に積み上げられているけれど、ソファの前のローテーブルに、4本ほど未開封のものが置いてあった。

 立ち上がってキッチンへと近付くと、漂ってくるアルコール臭。
 そこまで広いキッチンではないシンクの中に、所せましと置いてある缶は、すべて空。

 これをまさか自分一人で飲んだ訳ではないだろうと腕を組んで、記憶の糸を更に手繰り寄せた。

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 ぐいぐいと記憶の糸を引っ張り続けると、朧気ながら思い出してくる。
 思っていた以上に「酔」の滞在時間が短くて、店長が飲み足りないから飲み直そうと言い出したのだ。

 居酒屋みたいにガヤガヤした場所を好まない店長に、「なんならうちで飲みますか?」と軽い冗談のつもりで言えば、是と返事。
 ああそうだ。
 確か缶ビールを箱で買って、うちに帰ってきたんだった。

 部屋を見回すと……あぁやっぱりあった。
 缶ビールの箱。24本入りのあの箱を担いで帰ってくるのはなかなか大変だった記憶がある。

 だけど……。

「だめだ……それ以外思い出せないや……」

 自分が何本ビールを飲んだのかも分からない。
 家でどんな話をしながら店長と飲んだのか、分からない。
 酔うに任せて、飲みに飲み、喋りに喋ったに違いない。

 だけど家でのことは何も覚えてない。

 ただ、強烈に覚えているのは、「酔」で言い渡されたあの約束。

「二十歳のプレゼント……何聞こう……」

 あと何ヶ月かで二十歳になる訳だけど、私には重すぎる贈り物だと頭を抱えたのだった。

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