※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 38 ~
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そんなの、むりに決まってる。
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動いちゃだめだなんて、どんな拷問だ。
好きなひとに舌を舐められて、動いちゃだめだなんて……動くに決まってる。
大好きなひとと、キスして、その先を求めたくなるのは当然。欲しいまま舌を伸ばして、絡めて、粘着質な水音がたつくらいに、とろとろで、ぐちゃぐちゃに、なってしまいたい。
そういう欲求を抱くのが普通なんだと思うけど…………わたしは……その欲求を抱きながらも、彼女の言葉に従ってしまう。
ばくばくと鳴る心臓の音と、微かに耳に届く呼吸の音と、水音を、BGMに聞きながら、彼女の要求を、呑んでしまう。
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「は、……ぁ……」
舌の側面を根元方向へ辿って、雀ちゃんの舌が一旦離れる。
唾液が糸を引いて、ぷつりと切れて、わたしの口端に線を描いた。それを指先で拭う雀ちゃんは、小さく笑う。
「やば……えろすぎて、たまんない」
熱の篭った、浮かされたような声で興奮を告げる雀ちゃんの顔が見たい。
だけど、目を閉じているわたしが瞼をあければ、彼女と視線が、絡んでしまう。
それはちょっと、恥ずかし過ぎて、今は……むりだ。
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相変わらず大きくて煩いくらいの心臓の音。無駄な抵抗だけど、聞こえないフリをして、じっと目を閉じておくと、「いい子は気持ち良くしてあげなきゃ」と言った台詞通りに、雀ちゃんはわたしの舌を咥えた。
熱に包まれるわたしの舌。
男のひとのアレを舐めたことも、口に含んだこともあるけど、きっとこんなふうに気持ち良かったんだろうなと想像できる。
熱くてトロトロのこの口で、吸ったり、舐めたり、転がされるこの感覚。
絶対に気持ちイイに決まってる。
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現に、わたしは今、とても気持ちいい。
どんな宣言だ、どんな感想だ、とツッコまれそうだけど、だって、気持ちいいんだもん。
唇も口内の柔らかさも熱もいいんだけど、特に雀ちゃんの舌が、たまらなく快感を誘ってくる。
「は、っ、ぁ……っ」
伸ばした舌はそのまま咥えられて、まるで男のモノを口で扱くような動きをする雀ちゃんの中から、出たり入ったり。
時折、じゅぷ、と卑猥すぎる水音がたち、わたしの鼓膜を震わせ、脳を犯してゆく。
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最後に、突き出した舌の根元まで深く咥え込んだ雀ちゃんは、軽い甘噛みをしてから、わたしをゆっくりと解放する。
名残惜しそうに、舌と彼女の口とを繋ぐ銀糸の糸が、切れて、ぽたりとわたしの顎を濡らした。その感覚にすら、わたしは、腰の奥が、ジンと痺れる。
「動いて、いいよ」
雀ちゃんが、親指でわたしの顎を拭いながら、許可を出す。
私自身、どうしてこんなに従順に、彼女の言いなりになっているのか不思議だが、そうしなければと思ってしまった脳は、熱と快感欲求に支配されていて、今は使い物にならないからだと無理矢理な理由で片付けた。
きっと、唾液を纏ってヌラリと鈍く光っているであろうわたしの舌を、元の位置へと戻す。
ゆっくりと引き、舌を口内へと仕舞い込んで、こくんと、喉を鳴らしてみる。
――ぁ、ま……ずぃ……っ……。
思わずお腹を押さえたくなるような子宮の疼きは、恋人の唾液を嚥下したから。
舌にねっとりと纏った雀ちゃんのそれを、体内に招くと、得も言われぬ感覚が起きるのを知っていて、わたしは喉を鳴らした。
いつだったか、彼女に唾液を飲まされて、この感覚を知ったのだ。
喉を通し、食道を通り胃に落とした相手の唾液が、まるで、体内で発火したみたいに、身体が熱くなるこの感覚。
身体と頭は、風邪を引いた時のように熱くてぼやけるのに、背筋はゾクゾクとした悪寒のような快感が居座り続ける。
相反する温感と冷感で、どうにかなりそうなこの感覚が、クセになってきているわたしは、随分と変態道を進んでいる気がする。
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震える唇で息をこぼして、わたしは薄く、瞼を押し開けた。
予想通り、こちらの瞳を覗き込んでいた恋人と視線が絡む。
そうやってずっと、見つめ続けていられたのだろうと思うだけで、体温がさらに上がりそうだ。
「そんな、足りなさそうな顔しないで」
優しい苦笑を浮かべた雀ちゃんが、再びこちらへ顔を寄せながら、囁いた。
「ここでしたくなる」
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