隣恋Ⅲ~戦場へ~ 49話 完


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 戦場へ 49 完 ~

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 カチ、とドライヤーのスイッチが切られて、わたしは雀ちゃんを振り返った。

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 満足そうな表情でにこりと笑顔を浮かべた雀ちゃんは、どうやら髪をしっかり乾かせたことにご満悦のようだった。

「熱くなかったですか?」
「んーん、大丈夫。ありがとう」

 手を差し出せばドライヤーを乗せてくれる。流石に、片付けまでも彼女にさせる訳にはいかない。
 戻ってきて冷蔵庫からお茶を取り出す。と、目に入るラップがかけられたお皿。

 グラス二つにお茶を注いで、ソファに持って戻る。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

 
 グラスを受け取った雀ちゃんは、喉が渇いていたのか、半分ほどを一気に飲んだ。

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 わたしはお茶で口を湿らせると、食事の用意をしてくれた雀ちゃんにお礼を告げた。
 昨日、「一応ご飯用意しとくんで、食べれたらちゃんと食べてくださいね」と言っていた雀ちゃんが、空腹で帰ってきたときの為に用意してくれていたものだった。

「結局、一度も家に帰ってこれなくて、食べられなかったから、明日いただくね?」
「そんな大したご飯じゃないですけど。よかったら」

 謙遜する彼女が残っていたお茶を飲み干して、立ち上がった。

「愛羽さん、一人で寝た方がゆっくりできますよね」

 こちらの返事を待つまでもなく、テーブルに置いてあった携帯電話を握ってベランダに向かおうとする背中を引っ掴む。
 驚きで言葉がすぐに出てこなかったけれど、このコは一体なにを言っているのか。

「うぐ、ぁ、愛羽さん?」

 背中の服を引っ張られて喉が締まったのか、苦しそうな声で呻く彼女が肩越しにわたしを見下ろす。

「やだ。一緒に寝て」

 一人で寝た方がベッドは広く使えるかもしれない。
 だけど、それ以上に安心と寝心地を求めるわたしには、その狭さなど気にならない。

 むしろ、今夜は必ず雀ちゃんと眠りたいと思っていたのに、どうしてそういう乙女心は気付いてくれないのか。

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「疲れてるのに、一緒に寝て大丈夫なんですか?」
「疲れてるから、一緒に寝たいの」

 きっぱりと言い放って、彼女が逃げないように捕まえたまま、お茶をもう一口。
 テーブルにグラスを戻して、雀ちゃんを連れてベッドへ行く。

「はい。ベッド入って」
「でも」
「入るの」

 彼女の中には、きっと、疲れているなら一人で広くベッドを使って体を休めて欲しいという考えがあるのだろう。
 それは優しい雀ちゃんがわたしのことを思って、一緒に寝るのを渋っているのだろうけれど。

 わたしは一緒に寝たい。

「あ、ケータイ鞄の中だ。……逃げちゃ駄目だからね」

 釘を刺して、わたしはソファに置きっぱなしだった鞄へと近付く。
 中から携帯電話を探し出してベッドへ戻ると、まだ逃げる機会をうかがっているのか、ベッドに腰掛けて足を床につけている雀ちゃんの目の前で、枕元に置いてある照明のスイッチを切った。

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 照明をおとしても、ぼんやりとは見えるもので。

 座ったままの雀ちゃんの肩を押して、その体をベッドに、頭を枕に沈め込む。
 すこし強引かもしれないけれど、もう、眠気のピーク。
 1分もかからず眠りに落ちる自信がある。

 彼女の隣に膝をついて、片手で足元に整えてあった掛け布団をひきあげつつ、雀ちゃんの体に覆いかぶさった。

 彼女の体の右半分にかぶさるようにして、腕を首に回す。
 雀ちゃんの項あたりの髪をゆるく握って、暗闇の中、鼻と鼻をくっつけた。

「今夜はここに居て」

 おねがい。

 と吐息で告げつつ、雀ちゃんの唇を奪って目を閉じた。

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