※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 23 ~
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「ありがたく、頂戴します」
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「うむ。苦しゅうない」
おどけて言ったまーにちょっと笑って、もう一度ありがとうと告げる。
封筒を大切に鞄に仕舞い込みながら、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「すっごい勧めてくるけど……なんで?」
とりあえず宿泊券を渡して、いつでもいいから行ってきなよ、ではなくて、もう週末すぐにでも、という雰囲気で話をしていたまーに首を傾げる。
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封筒を仕舞った鞄を机の下に直すわたしを見下ろし、まーは首を指差した。
「だってキスマークついてるし」
彼女の言葉を理解した瞬間、手で首のそれを覆って隠す。
待って! ちゃんとコンシーラーで念入りに隠したんだけど!?
「昨日帰る前にはついてなかったのに、つけて来るし」
淡々とした口調で言うくせに、揶揄う気満々の顔が目の前にある。
「いや、中々電話に出ない間は、愛羽が風呂で、すずちゃんはバイトかなと思ってたんだけど」
右側の首筋をちょいちょいと指差し続けるまーの手を、上から押さえつけて膝まで下ろさせる。
「まるですぐ傍に居たみたいに電話代わるし、聞いたらまだお風呂入ってないって言うし」
「……やめて……」
「いざ来てみたら、首につけてるし、あもうコレは確定だなと」
「……やめてくださいごめんなさい……」
「いやぁほんと、邪魔して悪かったなと思って」
わたしは両手で顔を覆った。
バレてないと思っていたのに。ずっとバレていただなんて。
顔熱い。耳熱い。
……恥ずかし過ぎて死んじゃう……。
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それはそれは愉しそうにケタケタと笑ったまーは、わたしの肩にぽんと手を置いた。
「他の人の目は誤魔化せても、まーさんの目は誤魔化せないゾ」
と、物凄く自信たっぷりの声で言った。
わたしは顔を覆っていた指の隙間から、チラとだけ彼女を覗き見る。
「他の人にバレてない?」
「うん、多分。じっくり見ないと分からないくらい綺麗に隠してあるし」
でもちょっと薄れてるから、接待行く前には直したほうがいいかな、とアドバイスまでくれる始末である。
「……トイレ行ってくる」
「ついて行ーこお」
「どこ行くんですか?」
突然、割り込んできた男性の声に驚いて顔から手を外して目を向けると、そこには伊東君が立っていた。
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「何か楽しそうにしてたけど、何の話?」
お風呂に入って疲れを取ったのか、まだ疲労の色は滲むものの、さっぱりした顔でにこやかな笑顔を見せる伊東君。
帰る前と同じ色のスーツでネクタイを締めて、パリッとアイロンがきいているシャツを着た彼に、今までの話を説明する訳にはいかない。
「女同士の話だからだめ」
「伊東は聞かないほうがいいよ」
わたしの台詞に、女に幻想抱きすぎ、と言った事を連想したのだろうか。
まーは伊東君に首を振ってみせていた。
その隙に鞄からポーチを取り出して、わたしはトイレへと向かった。
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