隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 47話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 掴まれた手首が熱い。

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 ~ 湯にのぼせて 47 ~

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 背中に当たるのは壁。

 手首を捕らえるのは熱い手。

 正面からわたしを射貫くのは、どこか棘のある恋人の瞳。

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 雀ちゃんに背後から抱き締められていたわたしは、手首を取られて、彼女と向かい合わせになるよう振り向かされた。
 詰め寄る彼女に気圧され、一歩後ずさりすれば背中に壁があたる。

「す、雀ちゃん、急にどうしたの…?」

 旅館に戻ってきて、番頭さんと話をしているときは普通だったのに、部屋に入っていきなりこんな状態。
 そして、何よりも気になるのは、雀ちゃんの瞳にどこか棘があること。

 攻撃的なその色を見つめながら掴まれた腕を解こうとすれば、両手共を捕らえられ、頭の上あたりの壁にまとめて押し付けられた。

「どうしたのって? ただ愛羽さんが欲しいだけです」

 違う、そうじゃない。

「何か…おこってる…?」

 わたしの窺う言葉に、雀ちゃんは少し、笑った。

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 嘲笑するようなその笑みを唇に乗せた彼女は、3秒、動きを完全停止してからいきなり、自分の頭を壁に打ちつけた。

「えっ!? ちょっ、雀ちゃん!?」

 わたしの頭の斜め上あたりの壁に頭突きをしている彼女の姿はシュールなものがあるけれど、笑うどころの話ではない。
 焦る。
 何かにとり憑かれでもしたか。

 さすがに、ちょっと乱暴でも力ずくで両手を振り解いて彼女の肩を掴んで壁から頭を離させ、強引に床へ座らせた。

「どうしたの一体」
「……」
「雀ちゃん」

 長い長い沈黙のあと、彼女はぽつりと言った。

「…………妬きました」

 それはそれは、小さな声で。

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 妬いた?
 妬くって……嫉妬の妬くよね、やっぱり。

 でも……。

「妬いたって……誰に?」

 番頭さんかしら、なんて予想しながら問い掛けるわたしの顔は多分、物凄く怪訝そうな表情を浮かべていると思う。
 だって、どう考えてもあのキャラの濃い番頭さんにわたしが恋愛感情を抱くなんて無いことだし。それは傍から見ても明らかだったと思うんだけど……雀ちゃんが妬く要素はどこかにあったかしら……?

「喫茶店のウェイトレスさんに」

 ……はぁ? そっち? と思わず言いそうになったけれど、ぐっと堪える。
 どうやら彼女曰く、嫉妬はあの喫茶店に居た時からあったそうだけれど、ウェイトレスさんとわたし、何かしたかしら…?

 記憶をたどっても解らないんだけど…。

 そう考えながら、赤くなった彼女のおでこに目を留めた。
 前髪をかき分けて、指先で撫でながらその理由を問うてみる。

「考えてみても雀ちゃんが嫉妬する事件なんてなかったと思うんだけれど……わたしとウェイトレスさんの何に妬いたの?」
「……」

 ん? と首を傾げて優しく答えを催促しても、すぃ、と視線を逸らす彼女。
 わたしはゆっくりと目を細め、ジトと雀ちゃんを睨んで、赤くなっている額を小突いた。

「言わないと、今から喫茶店行って朝帰りするわよ」
「いっ、言います」

 喫茶店が朝まで開いている訳はないし、嘘の脅しと丸分かりなのに焦る雀ちゃんに、内心笑うけれど、彼女からしたらそんな嘘も見抜けないほど、重大な事なのだろう。

 雀ちゃんは渋々と、そしておずおずと口を開いてこう言った。

「……だって、綺麗な人だとか、香水なに使ってるかとか……愛羽さんの事好きになってるんじゃないかと思って……。言われてる愛羽さんも満更でもなさそうだし」

 ……うん、まぁ……まぁね?
 そりゃ確かに、綺麗な人だと褒められたし、香水が何かも聞かれた。
 だからって、彼女がわたしに恋愛的な好意を寄せているのかどうかはちょっと勘ぐり過ぎだと思うんだけど。

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 わたしはゆっくりと鼻から息を静かに吐いて、彼女の赤い額に口付けた。

「雀ちゃん。貴女、この旅行で前よりわたしの事、好きになってない?」
「なってます」

 即答。
 しかも、真面目な顔で。

「それは嬉しい事だけど、盲目になっちゃダメよ」
「盲目ですか?」
「言い換えるなら、猪かしら?」

 言わんとすることを分かったのか、彼女はへの字に口を曲げた。

 真面目に即答できる程の好意は、雀ちゃんの視野を狭くしている気がする。普段なら、あんな些細な事で独占欲を滾らせて、部屋に入った途端強引に迫るなんて事、彼女はしない。
 雀ちゃんはムードを大事にするタイプの人だし。

 この旅行でわたしは湯あたりしたり情けない所を見せまくっているのに、好きが増幅した雀ちゃんの心理は謎だが、好きすぎて猪突猛進になっている感じは否めなかった。

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 わたしは雀ちゃんの頭を撫でると、への字に曲がった唇にもキスをする。

「わたしは貴女だけのものだから、安心して?」

 間近で見つめる瞳に、もう棘は存在していない。

「貴女以外に、興味はないもの」

 微笑んでもう一度口付けると、腰に腕が回されて、抱き締められた。
 キスを受けていた雀ちゃんが自らわたしの唇を軽く啄んで、角度を変えて深い口付けをして、ゆっくりと離れた。

「すみませんでした。お恥ずかしい限りです」

 なんて言って、情けなく眉尻を下げる彼女もまた、わたしは大好きなのだ。
 本人に伝えた通り、雀ちゃん以外には興味が沸かない。

 それこそ、ウェイトレスさんも眼中にないくらいに。

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