隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 27話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 逆の立場が。

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 ~ 湯にのぼせて 27 ~

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 ちょっと可愛い仕草を見せれば大抵、雀ちゃんの意識を逸らせるんだけど……今回は少し、甘かったみたい。

「愛羽さん、何考えてたんです?」

 突っ込まれた。
 しまった。何か適当に考えていそうな事を言っておけばよかった。

 一秒にも満たない間に後悔を過ぎらせながら、次の1秒で打開策を生み出すために頭をフル回転させる。

「お酒飲もうかどうか考えてただけよ?」

 不自然に見えないようににこりと笑顔を向ければ、雀ちゃんのジト目に咎められた。

「うそつき」

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 じり、と視線に責められて、彼女の意外さに軽く目を開く。

「ちょっとだけ間がありましたよ。お酒なんて嘘でしょう」

 ……しまった。わたしとした事がばれてる。
 いつもぽやっとしている癖に、こういう洞察力は鋭い雀ちゃんの思考をなんとか逸らせないかと、上目遣いを使ってみる。

「お酒飲みたいなーって思ってたのはホントよ?」

 今日は食事の時は食前酒以外はずっと烏龍茶飲んでたし、食後に一杯やりたいなぁなんて思ったのは、ホント。

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 でも。

「それ以外に考えてた事、あるでしょう?」

 見抜かれる。

 
 ――困った。

 正直。こういう場面は困る。
 まさか「仕事馬鹿が原因でフラれた経験あるけど、その癖が直ってないんです」だなんて言えない。言いたくない。

 雀ちゃんがわたしのその癖に気が付いていなかったかもしれない。
 でも今日、この癖をバラすことで、彼女の中に”ひっかかり”が生まれるかもしれない。

 もしその”ひっかかり”が、歪みや亀裂に変化してしまったら……、と考えるだけでも恐ろしい。

「言いたくない」

 彼女の気を逸らすために仕掛けていた上目遣いもやめて、わたしはプイとそっぽを向いた。

 雀ちゃんから視線を逸らしてしまうと、彼女の表情が読めない。
 しまった。相手の表情を読めない体勢をとってしまうだなんて、次の行動のヒントも自分から受け取れなくしてしまうだなんて……。

 普段ならば、そんなヘマはしないんだけど……どうも今日は調子が狂っているみたい。
 妙にドクドクと鳴る心音を耳にしながら、敷かれた布団を見つめていた。

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 多分、時間にしたら、20秒、いや10秒も経っていなかったと思う。

 ぽふ。ぽふ。ぽふ。
 雀ちゃんの手がわたしの頭を軽く叩いた。

「お酒、買っておいたんで、飲みましょうか」

 優しい声に、若干、鼻の奥がツンとなる。
 追及することだってできるのに、それをしないでくれる彼女の優しさが、胸にくる。
 さらに、頭にのせられた手が撫でるように動かされると、余計だ。

「要りませんか?」
「……飲みたい、です」

 なんで、雀ちゃんに対して敬語を使ってしまうのか。
 状況と立場的にそうした方がいい気がして、わたしはもごもごと口を動かした。

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 いつの間に買っていたのか。
 冷蔵庫からビールと缶チューハイを取り出した雀ちゃんが、わたしに手渡してくれた缶。
 ヒヤリと冷たいそれは、まるでわたしに冷静さを取り戻せと訴えているようだった。

「いつの間に買ったの?」
「大浴場の隅にありましたよ、自販機」

 ということはお風呂からの帰りか。
 気の利く彼女よね、ほんと。

 部屋の端で二人並んで座椅子に座る。

「お腹いっぱいだから大丈夫だとは思いますけど、一気に飲んじゃだめですよ? それ、9%だから」

 缶チューハイにしては高いアルコール度数を指差す雀ちゃんに頷いて、ちびりちびりと甘口のお酒を飲む。

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 隣に座った雀ちゃんは体ごとこちらを向けている。テーブルに肘のせてわたしの顔を覗き込んだ。
 でも、なんだかその目を見返せない。

 いつもと真逆な立場。空気。
 いたたまれないというかなんというか……。

 結果、わたしは注意されたにも関わらず、手にしたアルコール度数9%のそれをぐびぐびと飲んでしまったのである。


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