※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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瞳輝く貴女。
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~ 湯にのぼせて 21 ~
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隣で何かが動いた気がして、ふわりと夢の中から意識が浮上した。
ん……、と小さく声を漏らして、瞼を押し上げる。
朝日の差し込む部屋の中で、ペットボトルに入った飲み物を飲んでいる雀ちゃんの斜め後ろ姿をみとめて、ぼんやりと昨晩、いつ眠ったんだっけか? と思考を巡らせてみる。
けれど、やはり寝起きだけあって、頭がうまく回らない。
――昨日えっちして……それから……それから……?
分からない。
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「なんで眉間に皺寄せてるんです?」
彼女の声にはっとして焦点を定めていなかった視界を、彼女にフォーカスを当てる。
雀ちゃんはペットボトルの蓋を閉めながら、こちらを不思議そうにみて、「もしかして二日酔いですか?」と首を傾げた。
「飲みます?」
わたしにペットボトルを振ってみせる雀ちゃんに頷き、ものすごく喉が渇いていることに今更ながら気が付いた。
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こちらへ差し出されたその青いペットボトルはスポーツドリンク。この乾ききった体には丁度よく、ありがたい。
寝転がったまま受け取ったけれど、このままでは飲めない。
よいしょ、と起き上がると掛けていた布団が素肌を滑り落ちて、その感触に咄嗟に、落ちた布団を引き上げて胸元を隠した。
「な、んで服着てないの、わたし」
驚きのあまり漏れた独り言に、雀ちゃんはわたしの枕元に畳んで置いてある浴衣を指差した。
「愛羽さんが昨日、服着たくないってダダこねてそのまま寝ちゃったんですよ、あの後」
苦笑する彼女が言う”あの後”とは、2回目のえっちのこと……よね。
自分がそんなダダをこねたことも思い出せない。
「……覚えてない……」
良く出来た彼女は、大人としてそんな発言するのもどうかと思う年上に対しても、「まぁ昨日はお酒も入ってましたし、仕方ないですよ」と笑ってみせてくれるのだった。
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落ち込むわたしを宥めて、雀ちゃんと朝食をとり、ゆっくりと身支度するとお昼時に。
昨日仕入れた情報ではこの温泉宿の周りにはいろいろとお店があるらしい。
「今日はお散歩してみよっか。雀ちゃん」
わたしの提案に、満面の笑みで「はい」と返事をする恋人が、なんだか今日は可愛くて仕方なかった。
思わずその顔をつかまえて、キスをするとしどろもどろになる様子もまた、可愛い。
「まだ慣れないの?」
揶揄うように言ってみせて、唇を人差し指で押してみる。
そうするだけで、余計赤くなる彼女は一体、どれだけ初心なんだろうか。
「あ、愛羽さんが可愛いからいけないんですよ」
なんて、無意識に上手いことをサラリと言って、わたしを喜ばせるくせに。
「おだてても何にも出ないわよ?」
「そ、そんなんじゃないですよ」
ふるふると首を振る仕草すら、可愛い。
ほんと、好き。
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それから宿を出て、ぶらぶらと二人で歩く。
とは言ってもゴールデンウィークな訳で、人も多くてゆったりまったり歩く、とはいかない。
「人。多いですねぇ」
「まぁ時期が時期だから。ディズニーランドよりはマシでしょう」
ゴールデンウィーク中のあそこの人の多さを想像したのだろう。彼女が「うへぇ」と嫌そうな顔をする。
可愛さに笑みを零しながら、周りを行き来する人に目を流す。
ここの人の多さなんていい方だ。ここにいるのはあの温泉宿に宿泊している人くらいなもので、宿周りのお店を目当てに観光客は来ない。それがここを選んだポイントの一つ。
せっかくのまとまった休暇だから雀ちゃんと一緒に出掛けたいけど、出掛けてわざわざ人の多さに疲れるのもどうかと思った。
だから、少しでもゆっくりできて、少しでも人の少ない所を、と選び抜いたのがこの宿だったのだ。
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とはいえ、やはり、路地を通れば人とぶつかりそうになる。
子供連れのご家族とすれ違うときには一番気を遣う。膝の高さくらいの身長の子供がよたよたとおぼつかない足取りで歩くのだから、こちらが注意しておかないと。
――ああほら、向こうで男の人と子供がぶつかって、子供が泣いちゃってる。
少し遠くから子供の泣き声。
ただでさえ身長が高くて腰から下には目が届きにくいだろうに、この人の多さ。余所見していなくても事故が起きてしまうのは、仕方ない気もする。
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そんなことを滔々と考えながら歩いていると、急に、腕を左に引き寄せられた。
驚いて目を丸くして、わたしを抱きとめた雀ちゃんを見上げる。
「交通事故起きちゃいますよ」
「え?」
彼女が視線をやる先には双子の子供。
よたよた、ふらふら。
おぼつかない足取りで進む二人の進路と、わたしの進路がもう少しで衝突するところだった。
「すみません」
「こちらこそすみません」
恐縮したように頭をさげる母親らしき人の隣で、両腕で二人子供を抱えた父親らしき人も会釈してくれる。
わたしはぺこりと頭をさげると、双子の子達に微笑んですれ違った。
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「ごめんね。ありがと」
「いいえ」
にこりと笑んでくれる雀ちゃん。
こういう所は本当に大人びていて、周囲に対する注意力が高いと思う。バーで働いているだけあって、洞察力系のスキルがあるんだろう。
年下にしては、わたしが彼女に対して注意や指導するべきことはほとんどない。昔一回、たらたら歩きながらジュースを飲み歩きしていた所を発見した事はあったけれど、生理でイライラしていたわたしの八つ当たりに近い部分もあったし。
そう考えると、わたしの方が思考は子供なのかもしれない。
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趣のある純喫茶を見つけてそこに入ってみると、意外とお客さんが少ない。
広がるコーヒーの香りに、雀ちゃんが隣で目を輝かせているのが判る。
「お好きな席にどうぞ」
バイトの子だろうか。ウェイトレスさんがさらりと手を広げてみせた。
お店の中はこじんまりとしていて、テーブル席が5つ。カウンター席が4つ。
そのうち、テーブル席は3つ埋まっていた。
どこに座ろうか? と雀ちゃんに問い掛けようと視線を上げると、キラキラした目で、カウンターの奥のコーヒー器材を熱心に見つめる顔。 さっきの双子ちゃんにも勝るキラキラな瞳にわたしは笑みを零した。
カウンター席を小さく指差して、ウェイトレスさんに「あそこの席でも大丈夫ですか?」と尋ねてみると、カウンターを選ぶ客は珍しいのか、一度カウンターを振り返ってから、慌てたように「どうぞどうぞ」と道を開けてくれた。
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4つ並んだカウンター席の端にわたしが座り、その隣へ雀ちゃんが。
「ありがとうございます」
「見るなら、近い方がいいでしょ?」
はにかんだように笑う彼女に微笑みを返していると、ウェイトレスさんがメニューとお水を持って来てくれた。外は暑かったから、お水が嬉しい。
ドリンクメニューのページを開いてすぐ目当ての文字が目を掠めれば、雀ちゃんが見やすいようにあちらへ寄せておく。
「わたしはアイスコーヒーを。雀ちゃん何にする?」
「んーと、オリジナルブレンドをお願いします」
とりあえずのオーダー。飲み屋で言うなら、「とりあえず生」と言ったところ。
みたところ、ここは軽食もあるみたいだから、それはゆっくりとメニューを見て決めるといい。
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まぁ……でも。
お隣さんはお昼ご飯そっちのけで、カウンター内に夢中だけれども。
カウンターの中に居るのは、ちょっと強面の40代くらいのおじさん。どうやらお湯を沸騰させているみたいで、その間に、コーヒーを淹れる為の器具を準備している手際は流石、速い。
わたしには何をどう使うのかサッパリわからないけれど、おじさんの動きにあわせて、視線をあてていく雀ちゃんには、次の行動も予測できるんだろうなぁ。
ほんと、小さな子が宝物をみつけた時みたいな顔して、じーっと観察してるその姿は、可愛い以外の何物でもない。
思わずキスしたくなったけど、ここは外。我慢我慢。
そう自分に言い聞かせながら、わたしはメニューをぱらりと捲った。
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