※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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聞きたかったこと。
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~ 湯にのぼせた後は 9 ~
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やってきた酢の物をつつきながら、わたしはまーが鞄に仕舞った黒い機械から聞いた内容を脳内で反芻しながら鼻から息を抜いた。
「何回思い出しても腹が立つんだけど……よくアレを録音する準備が出来たわね?」
多分、常務に呼び出されて、こういう込み入った話をされるなら、どこか空いている会議室に入ってすると思う。
ということは、デスクの引き出しにあの機械の用意があっても駄目。
ポケットに忍ばせておく必要があるのだから。
そんなわたしの考えを見抜いたように彼女は。
「いつもポケットに入れてるから」
またさらりと凄い事を言う。
「あの機械、会社に居る間中、ずっと? いつでも?」
「そう」
備えあれば患いなしって言うでしょ、とまた事もなげに言ったまーは軟骨の唐揚げを口に放り込んだ。
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彼女の凄い所はこういう所。
仕事でもそう。トラブルが起きるかもしれない、という予想を立てられたら、それを防ぐ術は必ず用意しておくし、そのトラブル対処の方法も事前に用意しておく。
先を見通したり、予測したりする能力が桁外れにあるのだ。
だからこそ、この年齢で部長まで上り詰めたのだと思う。
「なに、そんな尊敬の眼差し向けられると照れるんだけど」
なんて言ってすぐに茶化してくるまーだけど、実際にやっている事が凄すぎて、ただの図星だ。
「今回ばかりはその茶々は言い返せないわ。ほんと、まーってすごいわ」
感心する、というよりは、尊敬する、という表現の方がとてもしっくりくる。
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ふふん、と鼻で笑う彼女に肩をすくめて、そういえば、とわたしは続ける。
「雀ちゃんがね、あのお土産凄く気に入っててね? 昨日あれから、テーブルに置いて写真撮ったり、自分の鞄に付けて写真とったり、もうちっちゃい子供みたいに喜んでて。本当、ありがとね」
ビールを一口飲んでいた彼女は、すこし噴き出しそうになって口をおしぼりでおさえる。
それから両眉をあげて、おかしそうに笑う。
「写真て。そんな気に入ったのかぁ、すずちゃん。良かった良かった」
目を細めるまーに、雀ちゃんが人生で初めて”自分の為に選んでもらえた実用的なお土産”を貰ったのだと言っていたことを伝えると、どこか感心したように、彼女は「ほー」と言った。
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椅子の背もたれに体を預けて、腕を組み、「確かに」とまーは呟く。
「言われてみると、大学生のときって、お土産もらってもお菓子とか、ボールペンとか、キーホルダーとか、そんなもんだったよねぇ。そっかー、そりゃあんなウルウルしちゃうくらいには嬉しい訳だ」
昨日のわたしと同じような思考を繰り広げながらそれを口に出したまーは、ちょっとニヤニヤしながらこちらに視線を寄越す。
「いやぁ悪いね、彼女のお土産処女を頂いちゃって」
「お土産処女ってなによそれ」
なんか気持ち悪い言い方、と顔を顰めると、まーはケラリと笑った。
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「だって、愛羽がそんなふうにお土産渡して、ウルウル感謝のおめめで見つめられたかったって1回も考えなかった訳じゃないでしょ?」
「……どうしてそれを」
「キミの考えることなんてお見通しなんだよ、愛羽クン」
「じゃあわたしが次に言おうとしてること、当然分かってるわよね?」
まーは腕を組んだまま、ちょこんと首を傾げた。
「別に羨ましかったわけじゃないもん! ぷんぷん! ってこと?」
「ハワイ、誰と行ったの?」
ぷんぷんなんて言う訳ないでしょ、と彼女の軽口には乗らず、ズバリ、聞きたかったことをまーの顔をガン見しながら言ってやった。
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