※ 隣恋Ⅲ~待ち合わせは企みの香り~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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一目惚れとはすこし違う。
愛羽さんには、すでに惚れているんだから。
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~ 待ち合わせは企みの香り 1 ~
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「今日は外で待ち合わせしない?」
今朝、愛羽さんにそう言われたときは意外だった。
自宅が隣同士で半同棲のような生活をしている私達はデートするときだって、一緒に出掛けて、一緒に帰ってくるから。
「何か予定でもあるんですか?」
だったら今日のデートは中止にしても構わない。
そりゃあ残念ではあるけれど、過密スケジュールを組んでまでデートしなければならない仲でもない。
そう思って尋ねてみればやけににこにこした愛羽さんに「秘密」と可愛らしい笑顔を返され、私は指定された時間に間に合うよう、マンションを一人で出るに至った。
指定時間は、いつもデートをする時刻より遅い時間帯だ。
今日はディナーだけで終わりだろうか?
でも、待ち合わせ場所はカフェでも、夕食をとれるようなところでもない。
――いったい何をたくらんでいるんだろう?
そんな考えが頭を占めたまま、私は待ち合わせの場所へと到着した。
辺りを見回してみても、愛羽さんはまだ来ていないようだ。
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適当な場所を見つけて、ぼーっと道行く人達を眺める。
こういう時、愛羽さん以外の人と待ち合わせならケータイをいじっているんだけれど、大好きな恋人との待ち合わせでは顔をあげておきたい。
以前待ち合わせしたとき、先に到着していた私を発見して顔をほころばせ、こちらへ駆け寄ってくれた愛羽さんを見たことがあった。その光景が忘れられない。
だって、好きな人が自分を探してくれて、見つけてくれて、笑顔になって駆け寄ってくれる。
そんな絶景、他にはないだろう。
だから私はケータイに視線を落とさない。だがかといって、忙しなくキョロキョロするのは格好が悪く、たまに視線を動かすくらいになってしまうせいで、愛羽さんが笑顔になる瞬間を見逃してしまわないか、若干不安だった。
私がここに到着してから、5分くらい経っただろうか?
落ち着きを装いながらゆるりと視線を動かしてみてパッと目に留まったひとに、心臓が、バクンと大きく跳び上がった。
「っ」
声をあげなかったのは、自分にしては上出来だった。
――わ、ぁ。
心の声まで蹴躓く。
彼女が近付いてくるまで、ドッドッドッと走る心臓を右手で押さえ、反対の左手は滲んだ手汗をジーパンに擦り、拭っていた。
「ごめん、お待たせ」
待っちゃったよね? ごめんね? と重ねて謝る彼女に、私はふるふると横に首を振る。
近くで見ると、破壊力はより、増す。
浴衣姿。
「やっぱりちょっとだけ、手間取って」
照れたように、笑う彼女。
私とのデートの為に、こんなにも可愛い格好を……。
こちらを果てしなくときめかせている私の恋人は、いとも容易く手を取り、あちらを指差す。
繋いでいない方の手には、ビニール袋。
愛羽さんはそれを揺らしながら、向かう先を示し、
「いこっか?」
私を誘う。
歩き出す彼女の足元では、からん。と下駄が鳴った。
「持ちます」
私の胸にはときめきが続いているものの、慌てて彼女の格好に不釣合いなビニール袋を受け取る。
そこからはみ出しているカラフルな花火たち。
目を留めている私を横目で見上げて、愛羽さんはちょっと悪戯っぽく笑う。
「今日のデートプランはもうばれちゃった?」
「な、んとなく」
「なんでどもるの」
またいじわるに、でも嬉しそうに、肘で小突かれた。
その拍子に、ふわりと香ったいつもと違う匂い。
浴衣に焚き染めてあるのか、それとも、ただの香水か。
分からないけれどいつもと違う格好や、いつもと違う匂いを纏った彼女に、私の心臓は走りっぱなしだ。
「顔、赤いよ?」
歩きながらも、指摘もとい揶揄いと共に下から覗いてくる愛羽さんに、私は口をへの字にする。
「だ……って」
言葉が続かない。
恋人が眩しすぎて、ドキドキしすぎて、上手く、言葉が出てきやしない。
口籠ったまま何も言わないでいるのに、彼女がふふと満足そう笑った。
愛羽さんが笑顔を浮かべるといっそう華やかになって、直視していられないほどに、浴衣姿の彼女は可愛い。
「それだけいい反応してもらえると、頑張った甲斐ある」
こっち、と曲がり道を誘導されながら歩く。
……あぁそうか。確かこの先にある浜辺は、花火をやってもいい浜辺だ。
「どう? 浴衣、可愛い?」
信号待ちで立ち止まったところで、愛羽さんは浴衣の袖を指先で摘まんで広げ、くるりと回ってみせてくれる。
なにがどう、と説明できないけれど、蝶々みたいで可愛いって思った。それに、また香る匂いで、心臓がどきどきする。
――……どうしよう。
「可愛いすぎて、ちょっと困ってます」
「んふふ、上々」
私の正直な物言いに、彼女は片目を瞑ってみせてくる。
……またそういう、ウィンクとか普段やらない可愛いことしないで欲しい。ほんと、うん。心臓が壊れるくらいこっちはドキドキしてるんだから。
「雀ちゃんって、サプライズし甲斐あるよねー?」
してもらえるのは嬉しいですけど、どちらかというと、されるよりもする方がいいです。
喜んだ顔、見れるから。
「ほんと、可愛いんだから」
いつの間にか離れていた手を不意に繋がれた上に、きゅっと握り込まれた。
これで、ドキドキしない人間がいたら、顔を見てみたい。
普段から可愛いひとが、もっと可愛くなって現れるサプライズだなんて。
上手く喋れないし、どきどきするし、愛羽さんの顔だって、まともに見れなくなっちゃうんだもん。
――いや……でも、見たい。
好きなひとの、可愛い顔。
この浴衣姿は、そうそう見る事の出来ない装いだ。見ておかないと、もったいないぞ。堪能すべきだ。
どことなく貧乏根性が見え隠れする自身の目を、青に変わりそうな信号から恋人へと移せば、すごく、にこにこしている愛羽さんがそこにいる。
「ん? ほら行くよ? 雀ちゃん」
笑顔の彼女に、くいくいと引っ張られて、歩き出す。
――サプライズ。
されるより、する方がいいって思ってたけど。
「……」
こんな嬉しそうな彼女の笑顔を見られるなら、サプライズも、仕掛けられる側でもいいかもしれない。
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