隣恋Ⅲ~急ぐ鼠は雨にあう~ 36話 完


※ 隣恋Ⅲ~急ぐ鼠は雨にあう~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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  ~ 遅ればせながら 36 ~

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 ここで我慢できないとか、情けない。

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 全身全霊という言葉を使っても大袈裟ではないくらいに、私は、私の持ち得る理性をフル活用した。

 彼女の首の後ろに左腕を回してぎゅっと抱き締める。どうして両手で抱き締めないのかというと……ほら、その、愛羽さんの愛液が、指にあるから。

「んふふ、わたし、雀ちゃんに抱き締められるの、すき」
「……」

 ”欲しい気持ちは次のえっちまでとっておいて”と言うくせに、そんな可愛い発言をするだなんて……鬼か。
 好きな人が可愛いと抱きたくなるのは、当然の心理なのに。

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 ふふ、と嬉しそうに私の肩口や首筋に、猫みたいに頬を擦り付けてくる愛羽さんはトドメを刺したいのか、私の耳に軽く唇を触れさせてきた。

「雀ちゃん。すき」
「うっ…」

 ――この、ひとは……っ。

 ゾクッ、と走った悪寒に似た快感に片目を瞑る。
 口から漏れた声は誤魔化しようもなく、愛羽さんが小さく笑うけれど……仕方ないじゃないか。
 

「すーき」

 うぅ……またそうやって揶揄いたいのか、甘く囁いてくる彼女。
 上手くかわせばいいのに、それが出来なくて真向から受け止めてしまう私も私なのだが。

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 笑みを含んだ声がもう一度「好き」と囁いてくる。

「……だまって。襲いますよ…?」
「だめ。好きよ?」
「……うらみます、その可愛いさ」

 そんなにも煽るなら、襲っても構わないのかと言えば、即答で駄目という彼女が、鬼にしか見えない。
 抱き締めたまま、ため息を吐くと、やっぱり愛羽さんは笑う。

 くすくすと、いかにも楽しそうでたまらないように笑っている姿は可愛いくて、それはそれで可愛いんだしまぁいっか、という気持ちが胸に芽生えてくるから、もう惚れた者負けなんだなと思う。

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 耳元に小さな笑みを感じていると、ふいに、彼女がまた擦り寄ってきた。

「恨んでもいいから、その気持ちも次のえっちでわたしにぶつけて」

 ――本当に。このひとは……っ。

 わかっていない。
 甘ったるい声で言われる過激な台詞に、どれだけの破壊力があるか、理解していない。

 しかも、ほとんど、私の耳と彼女の唇はゼロ距離だ。
 脳に直接注ぎ込まれたみたいなハチミツのような台詞。

 心臓の奥辺りをきゅうぅぅっと鷲掴みにされた。
 胸を掻き毟りたいような衝動すら生まれるけれど、そんなことできない。

 だから、こう言うしかないんだ。

「覚悟、しておいて」

 仕返しに、出来るだけ低く、出来るだけ熱を込めて、腕のなかの人に伝えたけれど……こくんと頷かれただけだった。
 抱き締めていると相手の顔が見れないのは難点だが、今の台詞をドヤ顔で言った私を見られなかったのは、幸いだったかもしれない。 

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隣恋Ⅲ~急ぐ鼠は雨にあう~ 完

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