隣恋Ⅲ~ひねもす~ 13話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 13 ~

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 すきにしていいよ。

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 何度も木霊して頭の中を駆け巡るその台詞。
 それだけでも堪らないのに、目の前では。

「ぅわあ……言っちゃった……」

 と、私に握られて自由の利かない手をなんとか顔の前に引き寄せて、耳まで真っ赤な自分を隠そうとしている。

 ――か、……かわいい……。

 これで、襲わずにいられる人間が居るなら、顔を拝みたい。
 爪の垢を煎じて飲みたいとは思わないけれど、どんな顔をしてこの可愛さ満点の状況をやり過ごすというのか、その顔が見てみたい。

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 愛羽さんが顔を隠すために引き寄せた手には、もれなく私の手もくっついていて、恥ずかしさに身悶えしている彼女の熱い吐息がかかる。
 それだけで、こちらはゾクリとするというのに、未だに頭を駆けるあの台詞。

 すきにしていいよ。

 なら、好きにさせてもらう。

 私は、投げ出していた自由な手で、愛羽さんのバリケードを捕まえた。

「え」
「見せて。愛羽さんの照れた顔も可愛いくて好きですから」

 虚を突かれ、両手の自由を私に奪われた愛羽さんは、耳も顔も、首筋までもうっすらと肌を赤らめて、それだけでも十分可愛いのに、更に瞳をめいっぱい潤ませている。

「ま、待って」
「待てない」

 待ったら見せてくれるのかという意地悪な質問は投げ掛けず、愛羽さんが必死の抵抗で顔の前に両手をもちあげようとするのを、阻止する。
 力比べに負ける気はしないけれど、乱暴したい訳ではないので、加減が難しい。

 そうこうしている内に、逃げる術を発見した愛羽さんは、顔をベッドに押し付けるという方法で、私から顔を隠すことに成功した。

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「顔が見たいだけなのに」
「落ち着いたら見せてあげるから待って……」

 すきにしていいよ、って言ったくせに。
 胸中でのみ呟く。
 だってこの台詞は、こんな始まってもいない段階で使う必殺技ではない。

 ここぞという時のみ使って、その真価を発揮するのだから。

 それに今は、真っ赤になって照れる顔というターゲットがいなくなってすぐに、次のターゲットが現れたのだから、それでいい。

 顔をベッドに押し付ければ、当然、姿を現すのが、耳。

「しかたないですねぇ……」

 優しい声音をわざと使って、愛でるように髪を撫でる。
 梳いては流し、梳いては流し、ふわふわさらさらの髪をやっと肩の向こうへやった頃には、少し落ち着いてきたのか、愛羽さんのチラと見える首筋からは赤みが引いてきている。

 耳の赤みも少し薄らいでいるが、まだもう少し赤い。

 熟れ始めのサクランボのような色合いのそこに顔を寄せて、同時に、後ろへにげられないよう、腕を回して抱え込んだ。

「待ってる間、ここにキスしておきますね」

 小さく、ぇ、と聞こえた気がしたけれど、聞こえないふりをして、彼女の耳に唇を押し当てた。

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 何度か唇を押し当てつつ、鼻から息を吸えば、彼女の香りで肺がいっぱいになる。
 疲れだとか嫌なことだとかそういう物がほろほろと崩れていくような、癒される香り。

 シャンプーと、愛羽さんの肌の匂いが混ざったそれは、たまらなく胸にくる。

「雀ちゃん……っ」
「なんですか?」
「やっ……」

 呼ばれたから、返事をしただけなのに。
 彼女は甘い悲鳴なのか、嫌と言ったのか分からないくらいに短く甘い声をあげた。

「顔、見せてくれる気になりましたか?」
「ふ、ゃ……は……っ、そこ、で……しゃべらないでっ」

 どうして? と問いたいけれど、そこまですると、ただの意地悪で喋っていた事が明白になってしまう。
 食事と、シャワーが終わるまでは、せめて紳士的でいよう。

 すでに紳士の道からは外れていそうだが、すきにしていいよと言ってくれた彼女に報いるためにも、私は完熟のサクランボの色をした耳の傍から顔を退けた。

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