隣恋Ⅲ~ひねもす~ 1話


※ 隣恋Ⅲ~ひねもす~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ ひねもす 1 ~

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 ぱたん。と玄関の扉が閉まった。
 その内側に立って、恋人を見送った私は、手を伸ばして鍵を掛けた。その右手が顔を覆うのは、そう時間のかかることではなかった。

 だって。

 ――ラブホに誘われる日が来るだなんて……っ!!

 叫びたい。
 ここが大学であったならば、ラグビーサークルの部室まで走っていって、胴上げしてくれとお願いするところだ。

 だって。

 ――ラブホに……っ…………誘われた……ッ!!!

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 先程まで必死に冷静さを装って、意地悪な自分を装って、タイミングときっかけを掴んで、私の大好きな愛羽さんを彼女の自宅へと送り出した。
 愛羽さんの口から「ラブホテル」という言葉が出てきたときには、心臓が止まるんじゃないかというくらいに驚いたけれど、同時に、あの媚薬の存在とその意味は一本の線でつながった。

 今朝、まーさんからもらったドリンクは媚薬だと知らされたときから、そんなものを持って一体どこへ遊びにいくのだろうかと、大学の講義中にも必死で考えた。けれど、まさか、ラブホだとは思わなかった。

 そりゃあラブホなら、そーゆー行為をしに行くところだから、媚薬も全然アリだろう。
 あ、なるほどな。と一人納得したのが、いけなかった。

 鋭い愛羽さんの視線は、その一瞬の納得顔を見逃してはくれなかった。
 問い詰められ、冷ややかな目を向けられると、もう無理。最初は必死に隠し通そうとしたけれど、どうにもならなくて、我が身可愛さに、まーさんを生贄に差し出してしまった。

 まーさんが怒られるときには一緒に怒られますから。もうほんと、ごめんなさい。
 せっかく内緒でくれたのに。

 ラブホに誘われた喜びのあまり、玄関で蹲ったまま、私は遠い何処かに居るまーさんに向けて合掌をした。

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 合掌を下ろしながらようやく、立ち上がる。
 まだ、心臓はどきどきしているけれど、ご飯を食べて、バイトに行く支度をしなければ。

 リビングに戻って、ソファに取り残されていた膝掛けを取り上げて、軽く畳む。
 これを掛けてあげようと思ったのだが、私が動いた気配で起きてしまった愛羽さんには結局掛けられず終いだった。

 ここだけの話。これを掛けてあげたあとにキスしようかと画策していたのは、内緒だ。

 愛羽さんに寸止めの仕返しをした今、私はあと丸一日、我慢しなければならないのだから。

 ――キスしてから、帰すべきだったかな……。

 後悔するけれど、そんな自分勝手なことできないな、と首を振って、畳んだ膝掛けを元あった場所に仕舞った。

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 何を食べようか迷ったけれど、今からご飯を作る時間もないし、袋ラーメンでいいやと鍋でお湯を沸かす。

 たとえ500mlとは言え数分かかってしまうのだから、カップラーメンは偉大で簡単だなと思う。その次に、袋ラーメンは偉大。

 例え容器だけの差であっても、その手間は随分と変わるので、ありがたいのだが、いかんせんあれは高い。
 そんな贅沢な暮らしを出来る身分でも稼ぎでもないので、一般大学生は袋ラーメンを愛用するのだ。

 ――こんなの愛羽さんに見られたら、絶対顔を顰められるんだけど……。

 たまに、日曜日の昼とかにこれを食べるなら、なんとも言われないんだけど、平日の夜に食べているのがバレると、「体に良くないんだからあんまり食べないの。自炊しなさい」と怒られる。

 彼女に注意されるようになってから、自炊の頻度を上げたのだけど……正直、体調が整ってきたので、やはり自炊は大事だと痛感した。

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 ――厳しいようだけど、私の事思って言ってくれるし、色々してくれるもんなぁ。

 たまにお母さんみたいだな、と思う一面もあるけれど、その裏に隠れているのは、体を心配してだったりするから、恋人の鏡だよなと思う。

 愛羽さん自身、社会人で忙しいだろうに、たまに早く帰ってきた日には作り置きできるおかずをたくさん作って、お裾分けしてくれるから優し過ぎると思う。

 沸騰した湯に、麺を入れて箸でほぐしながら、私は首を振った。

「お母さんだなんてとんでもないな。明日、一緒にラブホ行くのに」

 そう考えただけでも、もう、顔が緩んでくる。

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