※ 隣恋Ⅲ~媚薬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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日もだいぶ高くなった頃。
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~ 媚薬 22 完 ~
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翌朝。
目が覚めたのは愛しい人の声…………ではなくて、職場の上司であり友人の声でだった。
「パン屋さんのパン買ってきたからご飯にしない? お二人さん」
新しいシーツのシングルベッドに二人で丸まったわたしと雀ちゃんを見下ろす彼女の手には膨らんだ茶色いビニール袋。
あれは近所でも美味しいパン屋さんの袋。
「ん゛ー……おはよう、まー」
「おはよ。すずちゃんも、おはよう」
「う゛ー……おはよう、ございます……」
寝起きで間延びした声を二人で出しながら、勝手知ったる感じでテーブルに買ってきたパンを広げて、買ってきてくれた缶コーヒーやカフェオレも並べていくまーを眺める。
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そこまで準備をされると、ベッドでゴロゴロしている訳にもいかずに這い出して、テーブルへ近づく。と、その数歩の移動で、妙な鈍痛が頭に重くのしかかった。
なんだか二日酔いのようなその感覚にこめかみを揉んでいると、雀ちゃんと目があう。
彼女もまた、まるで二日酔いの人みたいに額に手の平を押し当てるようにして頭を抱えていた。
昨日、家呑みはしたけれど、そこまでたくさん飲んだかしら……?
しかも、雀ちゃんが二日酔いになることなんて珍しい。
「?」
「え?」
なんで、二人とも示し合わせたように頭痛が?
そんな疑問がお互いの頭に浮かんだのは表情で分かった。
「あー、やっぱり頭痛い?」
そこにあっけらかんとしたまーの声。しかも、何かその疑問に対する答えを知っていそうな声。
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「……どういう事よ」
なんだか嫌な予感がして、ジロリとまーを見遣る。
そのわたしの横で雀ちゃんの肩がピクリと動いたのも、視界の端で捉えて、そちらにも目を向ければなんともわざとらしく明後日の方を見る雀ちゃん。
「……ちょっと、二人とも」
一段、低くした声で呼びつけると、顔を引き攣らせる雀ちゃんと、まー。
まーの方はそんなにまで固まってないけど。
「まぁまぁ、昨日はオタノシミした訳でしょ? あたしのおかげで」
「な、んでまーが知ってるのよ」
オタノシミ=えっち。
それをどうしてまーが知っているのか。ていうかそもそも、どうやってえっちが始まったんだっけ。
そういえば、家呑みを三人でしていたはずなのに、どうしてまーが雀ちゃんの部屋へ消えていて、わたし達はえっちを始めたの……? ……あれ? なんか、おかしい。記憶が、そのあたり……無い。
記憶の糸を辿っても辿っても、家呑みからえっちに移行する辺りがまったく思い出せずに顔を顰めた。
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「これ、を……ね」
言いながらまーが、取り出したものをパンの横に置く。
小さな小瓶。香水の入れ物みたいなその容器の中身は液体。半分くらい無くなっているけれど……。
「飲ませたのよ」
「……なに、それ」
「媚薬」
「びっ!? な、なんてもの飲ませてくれてんのよ」
び、び、媚薬とか、本当にあるんだ。
漫画の世界だけの話かと思ってた。
しげしげとそれを眺めながら、昨晩の雀ちゃんとの情事を思い出してみれば、なんとなく思い当たる節がチラホラと浮かんでくる。記憶が曖昧なところがあるのも、そのせいか。
「その顔は、何か思うところアリ?」
ウシシシと妙な笑い方をするまーを赤ら顔で睨む。そういう鋭い所は仕事では助かるけれど、こういう場ではいらないのよ。
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「で、コレ飲んだら頭痛くなる訳?」
「うん。そうらしい」
「え゛!?」
濁った声で驚きを発したのは雀ちゃん。
そちらを見れば、目を白黒させながら媚薬の入った小瓶を指さして、何か言いたそうに口をパクパクさせている。
……そういえば……雀ちゃんも頭痛そうにしてたような。
「飲ませちった。てへ」
「てっ、てへじゃないですよ!」
雀ちゃんにむかってペロリと舌を出して、片手で自分の頭をペシと叩くまーに叫び返して、彼女は頭痛に顔を顰めている。
そんな彼女が妙で、片眉をあげて、わたしは寝起きの頭を巡らせる。
普通、さ。
この小瓶が媚薬だ、って判明した瞬間に、「え゛!?」の発言が出るんじゃないの?
でも雀ちゃんは、媚薬を飲むと頭が痛くなる、と判明した時から慌て始めて……。自分が飲まされたと理解するともっと慌てた。
そこでわたしは、仮説を立てた。
雀ちゃんとまーが結託して、わたしに媚薬を飲ませたのだったら……。
そして更に、まーが裏切って雀ちゃんに媚薬を飲ませたとしたら……。
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仮説を立てたとき、それが正解の場合は、何か直感でピンとくるものがある。
「雀ちゃん」
「はい、え? あ……」
こめかみをぐりぐりと指で揉んでいた雀ちゃんがこちらを向いて、表情を引き攣らせた。
名前を呼んで、それだけでこの反応をするということは、もう、確実だ。
「何かわたしに隠してること、ない?」
「なっ、なにもっ」
ビシ! と両腕を体の横へつけて気を付けの姿勢をとる雀ちゃん。
態度が正直すぎるけど、その口だけは反抗的。
そんな雀ちゃんをテーブルに頬杖ついた状態で揶揄うまー。
「あ~、ウソついちゃいけないんだ~」
「真紀は黙って。後で話がある」
「ハイ……」
ピシャリと言えば、がっくりと肩をおとしたまーを一瞥して恋人へと向き直る。
まったく……休日の朝から説教しなきゃいけないなんて。
そんなことを考えながらくどくどとお説教を始めた。
説教の途中、まーが俯いたままで顔上げないなぁと思ってチラ見したら、もそもそパン食べてるし。
その頭を小突いてやりながら、昨日の雀ちゃんを思い出す。
…………多分、あの子は、普段丁寧だし物腰も柔らかいけど、根はSだ。ドS。
じゃなきゃ、あんなにわたしを愉しそうに苛めたりしないし、その口から何度も、「苛めたい」とか出てこない。
媚薬という一種の精神崩壊のクスリを用いて暴かれた雀ちゃんの性格。
……キライじゃない。
というか。
大分、スキなのが困る。
Mで良かったとか頭の隅で思ってしまう所が、マズイ。
まーのおかげで、もっと、恋人を好きになってしまった。
なんて思いながらも、雀ちゃんの説教は止めないのだった。
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隣恋Ⅲ~媚薬~ 完
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