隣恋Ⅲ~戦士の休息を見守りながら~ 2話


※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 ~ 戦士の休息を見守りながら 2 ~

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 舐めた唇はやはり柔らかく、少し固くした舌先で押し込めば、ふにゃりと形をかえた。

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 私の右半身にのしかかっている愛羽さんの後頭部へと、左手を伸ばす。
 彼女の長くて触り心地の良い髪は私の顔に掛かっていて、照明を落として真っ暗な部屋の闇を余計濃くしている。

 照れているのか、伸ばした舌へ愛羽さんが舌を絡めてくれないので、仕方なく彼女の唇を撫でつつ、彼女の髪をかきあげ、耳にかけた。と、その瞬間。

 ずるる、と愛羽さんの頭が、私の右肩の上へと滑り落ちた。

 予想もしていなかった事態に一瞬、頭が白くなるけれど、耳のすぐ横から、規則的な呼吸音が聞こえて、寝息が肌をくすぐって、状況を理解した。

 ――…………寝てる……。

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 いやいやいやいやいやいやいやいや…………っ!!

 まじか、マジかよ。そんなのってありか。
 唇吸ってきたのは何か、赤ちゃんのおしゃぶりみたいなもんか。

 私の中で燃え上がっているキャンプファイヤーはどうしてくれるのか。

 ――だからっ……だから一人で寝た方がいいって言ったじゃん……!

 それは彼女の体を案じて、というよりは、自分の性欲をこれ以上増加させないために、という理由でだったのだが……。
 徹夜と接待という重労働をしてきた相手の事を一番に考えなかった私に、罰が当たったのかもしれない。

 どこからか、ミニ雀が戻ってきて、放り出して転がっていた消火器を拾い上げ、恐る恐るキャンプファイヤーに近付いて、消火活動を始めた。

 やはり今夜は、寝かせてあげることしか、出来ないらしい。

 元々そういう考えだったのに、ちょっと、魔が差して「できるかも」とか思ってしまったのが間違いだ。
 そう思い込むことでしか、自分を納得させられなくて、愛羽さんの髪から手を離して、顔面を覆う。

「……まじか……」

 思わず呟いて、深く深く、溜め息をついた。

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 ミニ雀が消火器で消したキャンプファイヤーは、ぷすぷすと煙を細く立ち昇らせている。
 使い終えた消火器に寄り掛かって座り、額の汗を拭っているミニ雀にご苦労さんと声を掛けてやりたい。

 夢なのか現実なのか、その狭間でうろつく意識の中、ぼんやりと考え事をする。

 つい、この間だ。
 愛羽さんがもっと自分に素直になっていいからと諭してくれたのは。
 いや、素直になれというよりは、我慢をし続けるな、と言う方が近いだろうか。

 彼女と付き合うようになって、私は極力、負の感情を表に出さないよう気をつけてきた。
 だって、誰だって、怒りや悲しみ、妬み嫉みは嫌なものだ。恋人のそんな嫌な所、他人のそれを見るよりももっと、見せられたくないはずだ。

 だから出来るだけ、我慢してきた。
 もちろん、聖人君子でもなんでもない、ただの学生の私には我慢しきれない感情も多く、それを欲情に紛れ込ませてセックスを通じて愛羽さんにぶつけてきた。

 もちろん、彼女の恥ずかしがる顔が可愛くて意地悪をしたくなることの方が多いのだけれど、嫉妬などしたあとはどうして嫉妬させるような行動をとるのか、と彼女が悪い訳でもないのに、酷くしたこともある。

 だけどそれを受け止めた上で、愛羽さんはもっと嫉妬や怒りを表に出していいからと言うのだ。
 自分はもう貴女のものだから。
 嫌ったりしないからちゃんと感情をぶつけろ、と。

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 多分、愛羽さんにはバレてるんだ。
 私が嫌われたくないが為にギリギリまで我慢するのだと。

 ”嫌われる”という事をきらうというよりは、恐怖を感じる私は、自分が我慢して嫌われないのならばそれでいいとさえ思っている。

 嫌われるくらいなら、我慢しよう。それで事が上手く進むのならば、それでいい。

 偽善だ自己犠牲だと言われたらそれまでだが、そのどこが悪いのか。
 私一人の偽善や自己犠牲で、私が嫌われずに済むなら、上等だ。それはただの等価交換なのだから。

 だけど私の恋人は、優しい手で頭を撫でながら諭すのだ。

 ずっと一緒に居たい人だから、本当の気持ちをぶつけ合って、衝突しちゃったらきちんと話し合える関係になろうね、と。

 あの時のことを思い返すだけで、鼻の奥がツンとなる。
 だって、社会人で年上で、私よりもずっとちゃんと自立してる人が、私なんかと対等に話をしてくれようというのだから。
 ただの大学生で親の脛を齧って生きて、人から借りた車でしか彼女を仕事場まで送ることしかできないような自分なのに。

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 ――あぁ……いかん……。

 夜だからだろうか。思考が良くない方へいく。

 寝返りを打って、愛羽さんに背を向ける。
 あんなふうに優しく諭してくれるのに、こんな暗い考えを未だに抱える自分が情けなくて、眠っている彼女に見られる心配はなくとも、大好きなひとに、自分のいまの顔は見せられなかった。

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