※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦士の休息を見守りながら 3 完 ~
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さっさと寝よう。
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いつまでも未練たらしく起きてるから、こんな暗い考えが浮かぶ。
さっさと意識を手放してしまおう。
軽く嘆息をついた私の上に、のし、と何かが乗っかった。
同時に、背中の……肩甲骨あたりに温かいものが押し付けられる。
「……愛羽さん……?」
私の上に乗っかっているのは、彼女の右腕。
肩甲骨に触れているのは、多分、彼女の額だろう。
もしかして、まだ、起きているのか……?
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名前を呼んで、数秒、じっとする。
それでも返答はなくて、聞こえてくるのは寝息だけ。
どうやらたまたま、寝返りを打って私に寄り添っただけのようだ。
そんな偶然でも、ささくれ立った心を宥めてくれる効果は十二分にもあって、お腹に回されている彼女の手をそっと握った。
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彼女の手の甲を覆うように重ねた手。
弛緩した指と指の間に滑り込ませた指で、小さな手をきゅっと握る。
意識がある訳ではないだろうけれど、なんとなく、きゅ、と萎む指。
握り返されたことが嬉しくて、心臓の奥辺りがぽうっと温かくなった。
昨日の二日酔いの朝もそうだったけれど、彼女はよく、こんなふうに私を救ってくれる。
スポドリを買いに行くくらい、と思われるかもしれないが、あのひどい頭痛の中、外出するのは玄関先まででも辛かったくらいなのだ。あそこからエレベータに乗ってエントランスを出て、道路脇の自販機に行って、数本のペットボトルを抱えまた同じ道を帰ってくるのは……めちゃくちゃ、時間がかかっただろうし、辛かったと思う。
あの時、愛羽さんが代わりに買ってきてくれて、本当に助かった。
お昼には心配してくれて、電話をくれた。
それに、今だって。
ささくれ立った心を落ち着かせるような温もりをくれた。
きっと、愛羽さんにこれを言えば、
「大袈裟よ。そんな事誰でもできるし、してくれるわよ」
と呆れたように笑って頭を撫でてくれる。
だけど、私はそれで、救われているし、守られているのだ。
大袈裟と思われようが、私はそれが嬉しくて仕方ない。
大事にされているなと思うし、その分、愛羽さんを大事にしたくなる。
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「好きだなぁ……」
そう考えると、私の色欲が満たされなくとも彼女の安眠が確保されるのなら、安いものだ。
それこそ、二日酔いの朝スポドリを買いに行ってくれたお礼だとでも思えば、当然のこと。
たとえ仕事で引き裂かれ我慢を強いられた色欲を燻らせた身体に、煽るような事をしておいて寝落ちする恋人がいたとしても、手を握る程度で抑えて、寝かせてあげるのが良い。
例え、ミニ雀が「高い代償だな……」と呟こうが無視無視。
私は彼女の小さな手を親指で一撫ですると、ゆっくりと、夜の闇に意識を融かし込んだ。
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