※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 27 ~
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程なくして、伊東君が手ぶらでお店から出てくる。
「手土産は預かってもらえました。部屋も見せてもらいましたけど、ちゃんと個室です。でも、料亭なのに円卓なんです」
席順どうしましょう? と珍しく困った表情を浮かべる伊東君に片眉をあげて、まーは自分の背後にででんと大きく構えているお店の全体をじっと見据えた。
「……もしかして卓袱料理?」
まーの口から出た言葉に、わたしは冷や汗がじわりと背中へ滲むのを感じた。
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「尻尾?」
「グーパンするわよ」
首を傾げた伊東君は結構真面目に尋ねたみたいだけど、その見当違いな質問でまーに睨まれて身を竦めた。
「伊東君、わんちゃんの尻尾じゃなくて、しっぽくりょうり、知らない?」
「……面目ない」
聞いたことないぞ……と彼の顔に焦りが浮かぶ。
「大皿でドカドカ料理だされるから、自分で箸伸ばして取る奴よ。円卓はドアから一番遠い席が赤城さん。あとはその両隣から埋めて座るの。中華なら主賓が来るまで座らずに壁際に控えておくのがルールなんだけど、まぁ今回は日本料理でもそのルールに則っていきましょうか」
まだ約束の時間よりは早いから、赤城さんが姿を見せるとは思えないが、急ぎ足で説明したまーが、伊東君の額を小突く。
「伊東、勉強不足。減点。行くよ、愛羽」
「すんません!」
がば、と頭を下げた彼に苦笑して、早くもお店へ歩きだしたまーを小走りで追いかける。
見張り役、というと語弊があるが、もしも赤城さんが早めに来られた際、誰も出迎えていなかったという事態にならないように、彼はここに残ってもらう。
それを伊東君も心得ているようで、頭をあげた彼が追いかけてくる気配はなかった。
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お店に入ってみると、外から建物を見た時よりも大きな驚きが胸に湧く。
黒と金を基調にした豪奢な内装に見劣りしない、赤いふかふかの絨毯が敷き詰められた店内には、品の良いBGMが流れている。少し奥へ足を進めると、お店の中央には生け簀があって悠々と何種類かのお魚が泳いでいた。
ああこのお魚食べられちゃうってことも知らずに気持ちよさそうに泳いでる、なんて事を考えつつ、着物の仲居さんと言葉を交わすまーの背後に控える。
伊東君が先に入ってくれてたおかげで、二言三言交わしただけで、早速部屋へと案内してもらえるようだ。
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通された部屋は、靴を脱いであがる座敷。
円卓と伊東君が言ったときに覚悟はしていたけれど、いざ目にすると溜め息を吐きたくなる。接待で座敷はつらい。自分で接待するお店を選べるときは、絶対に選ばない。
だって、正座しなければならないから。
「荷物はこちらに置いて頂いたら」
と、部屋の一番奥、まるでそこが扉ではないかのような壁を仲居さんがスイと横へスライドさせると、ハンガーや荷物を入れておける籠が姿を現した。まるで、秘密の扉の押入れだ。
お礼を言いつつ、鞄の中から携帯電話を取り出して電源を落とす。
何か連絡が入るとすれば、部長であるまーの携帯電話だ。それ以外の携帯電話はバイブの音すらしない状態にしておくべきだ。
電源を切った携帯電話を仕舞った鞄を伊東君の鞄の隣に置く。
その横にまーの鞄が置かれて、仲居さんがご丁寧に壁をスライドさせて戻してくれた。
「何か、ご不明な点ございますか?」
「んーと、お手洗いの場所は?」
「男女とも共有で、こちら出られて右に廊下をずっと行って頂いた突き当りにございます」
「タクシー呼んだら何分くらいで来られますかね?」
「混み合ってないようでしたら、10分程度でございます」
何か他に聞くことある? と目で尋ねられて首を横に振った。
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腕時計で時間を確認すれば、もう約束の15分前である。
仲居さんと一緒に玄関まで戻り、「出迎えに行ってます」と頭を下げた。
接待でよく使われるお店なのだろう。心得たように彼女は淑やかに頭をさげてくれる。そのはんなりとした仕草が綺麗だったなぁと思いながら、表に出ると、早速まーがぼやいた。
「なんで長崎でもないのに卓袱料理の店がこの辺にあるのよ」
「予想外だったねぇ……」
卓袱料理とはもともと、海外から伝承したものが時代と共に変化しつつ、長崎を発祥の地とされるものだ。
和、洋、中と様々な料理が組み込まれているのは、外交の地であった出島がその理由。
しかし料理の内容は和洋中様々ながら、使われる食器は和のもの。
大皿にのせられた料理を、和気あいあいと会話を楽しみつつ、箸を伸ばす。
どちらかといえば、長崎の方での結婚式だとか、家庭料理的なイメージであるけれど、それを逆に、グレードアップさせて料亭として構えたのは、なかなか商売の目の付け所が違う。
この辺りで卓袱料理を出す店なんて、珍しい。
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「副社長もなんでこんな接待に不向きの店選んだんだか……」
「食べたいって赤城さんが言ったのかもね」
「そうかもねぇ……。伊東」
店の前で道路の方を眺めていた彼に声をかけたまー。振り返った伊東君は、腕時計でちらと時間を確認してから首を振った。
「まだ来られてないです。部屋の荷物置くところ凄くなかったですか?」
「忍者扉は凄かったけど。それよりあんた、食事の順番わかってる?」
「い゛!? そんなんあるんですか?」
驚きの声をあげた彼の向こうから、タクシーが一台、こちらへと向かってやってきた。
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