※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 戦場へ 22 ~
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「いやいやタダって訳じゃなくて。とりあえず、中見てみ?」
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にんまりとした顔付きになんだか嫌な予感を覚える。
再び手渡されたその淡いピンク色の封筒を恐る恐る開く。
銀行の封筒なんかみたいに縦向きではなく、商品券の封筒のように横向きに開くそれから取り出したのは、2枚の……チケット? いや、違う。宿泊券、と書いてあった。
「どこの宿泊券?」
やけにセクシーな字で書いてある”宿泊券”の文字を目で追いながら首を傾げると、まーがより椅子をこちらに近付けてきた。
「ラブホの宿泊券」
「なっ!?」
驚いてすぐさまそのチケットを封筒の中へと仕舞い込む私に向かって、両手の親指と人差し指を使ってハートマークを作ったまーが、「ワァ~~オ」とか言ってふざけてくる。
「気持ちは嬉しいんだけど! 渡す場所ってものがあるでしょ!」
極力おとした声で叱る。
ほんと、雀ちゃんのことを気にかけてくれたのもありがたい。
まだ頂くかは決まってないけど、これを差し出してくれたのもありがたい。
だけど、さすがに、会社で広げるものではないだろう。
「だから封筒に入ってるんじゃんか」
と唇を尖らせるまーを軽くジト目で見ていると、彼女は封筒に手を伸ばしてピンと弾いた。
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「これ、ただの宿泊券じゃなくて。つい最近できた所の宿泊券な訳よ」
「……うん」
「出来立てのホテルだから、レビューしてくれって知り合いから頼まれてさ。まぁつまりタダ券やるから記事かいてよって事」
記事といっても、アンケート用紙の質問に答えるだけでいいそうなのだけれど、だったらなぜ、2枚もあるのか。
ラブホテルは基本、2人1組だ。
だから宿泊券は1枚でいいはずなんだけど……。
わたしの疑問を読み取ったのか、まーは得意気に話を進めた。
「この封筒も意味がある物で、チケットと一緒に封筒も見せたら通常できない連泊が出来るんだって。別の部屋に泊まってみたいなら、一度チェックアウトして、また入ってもらう事になるんだけど、あたしの個人的意見を言わせてもらうと、確実に、連泊したほうがゆっくりできるし、チェックイン開始時間気にするとか煩わしい事が減るからいいと思うよ」
「確かに」
一度外に出るとなると、身支度しなければいけないけれど、連泊するならば、まるで家のように過ごせるということだ。
「お、愛羽さん乗り気になってきましたねぇ」
「……」
赤い顔でまーを睨むと、余計、にやにやされた。
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「で。まぁ君たちに一番オススメしたい理由は、女子同士でも気軽に入れるシステム導入したらしくて。女の子同士で入ったら、ケーキかなんかタダで食べれるんだってさ。まぁ後はサラリーマンの出張とかで泊まってもらうのも全然おっけーにしてるらしいんだけど、流石にそれはあんま客来ないって言ってたかな」
最近は女のコ同士でラブホ行って、騒いで遊んで女子会するのも流行ってるらしいよ。とまーは言うけれど……うーん。見た目で判断されるなら、それは、難しいかも。
「警備員のおじさんに、カメラで雀ちゃんみて、彼氏か? って聞かれたんだけど」
昨晩のことを思い出して告げると、まーは吹き出してから、「ま、それはそれで別にいいんじゃない?」と笑う。
「あぁ、あと、その封筒見せて連泊した場合のみ、ぜーんぶタダなんだって」
「全部?」
「ご飯も、レンタルのなんやかんやも、販売機のおもちゃも。全部。仮に片っ端からメニュー制覇して、セーラー服レンタルして着て、全部のおもちゃ使って楽しんでも、チェックアウトの時にはカードキー返すだけで、おっけー。お財布要らない」
わたしは目を丸くした。
いったい、なんだ、この”宿泊券”は。
いや、この”封筒”は。の方が正しい。
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絶大な効果を誇るこの淡いピンク色の封筒。
何もかもが無料になるだなんて、聞いたこともない。
ラブホテルの宿泊費は結構高い。
それが全額タダになるだけでも、物凄くお得感があるのに、さらに、この封筒を見せるだけで、連泊が可能になり、ご飯もレンタルもおもちゃも無料になるだなんて。
「……これ、誰からもらったの……?」
胡乱な目で、まーを見る。
こんな大層なものを、どこから入手したのか。
「このホテルの経営者」
……相変わらず、顔が広い我が上司に、そんな知り合いが居ただなんて。
「誰にあげてもいいって言ってたから、使いなよ」
その代わり、アンケートは5枚くらいにわたって項目あるからね、とまーは念押しする。が、そのアンケートに回答するだけで連泊できてすべて無料ならば、安いものだと思う。
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「ここだけの話ね。上に昨日の事件と今回の契約取れたこと報告したら、徹夜組には有給が1日ずつ与えられたの。もちろん、徹夜の時間は残業手当と深夜手当つくようにしてあるし」
「え、ほんと?」
それは疲れた体には嬉しい。
「いきなり全員同時には休ませてあげられないから、日にちずらしてなんだけどね」
申し訳なさそうにするまーだけど、有給をとってきてくれた彼女には感謝しかない。
「愛羽は金曜か月曜に有給ぶつけて、3連休にして」
ちょんちょんと封筒をつついて、ここに行ってこいと口角を上げるまー。
わたし一人で行く訳ではないから、雀ちゃんに予定を聞かなければ分からないけれど……。
「ホントに、もらっていいの?」
「いいってば。あたしに二言はない」
値段に換算するとかなりのもの。
だけど、それだけに魅力的だった。
……雀ちゃんと、ラブホ、まだ行ったこともないし。
「いいの?」
「いーよ」
しつこいくらいに尋ねるわたしに、彼女は柔らかく笑って頷いた。
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