※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 宿酔の代償 19 ~
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「カルボナーラとミートパスタ手作りする人とか初めて見た……」
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プチプチと泡が底から上がってくるソースの火を止めて、雀ちゃんはフライパンを片手で取り上げる。空いた手でミートソースの入った鍋の火の強さを緩めてから、お皿に盛られたパスタの上へと白いソースをかけ、粗挽き胡椒をふる。
「別に難しくないですよ?」
全く苦とも思っていない言い方。
うーん、わたしの中では、カルボナーラは外食か、家で食べるならレンジでチンしてソースをかけて食べるもの、というイメージしかない。
だから、”いや作るの全然簡単だし?”みたいにサラッと言う彼女がどこかのシェフにでも見えてくる。
シェフはどこからともなく、卵が一つころんと入ったお皿を取り出して、それを手に取る。生卵を割る要領で、シンクの端にコンコンと叩きつけて殻にヒビを入れ、両の親指を軽く挿し込み、カルボナーラの上で殻を割った。
とぅるんと姿を現したのは、お店でよく見かける温泉卵。
「えええ……!?」
「だからそんな難しくないですってば」
可笑しそうに笑う雀ちゃんは、粗挽き胡椒を温泉卵の上にもすこし振って、お皿をわたしに差し出した。
「ハイ。テーブルに持っていってください」
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シェフから手渡されたお皿をしげしげと眺める。
白いお皿に盛られたパスタは、どこにでも売っているような茹で時間6~7分の普通の細麺タイプのそれ。
そんな細麺にもきちんと絡みつくようにとろみの強いソースが全体にかかっていて、色と味のアクセントをつけるようにベーコンが散りばめられている。
そして中央には、今にも膜を破って出てきそうな黄身を半熟の白身が包み込むぷるんぷるんの温泉卵。
全体にかかっている粗挽き胡椒も、まろやかなカルボナーラソースを引き立てる一役を買うに違いない。
――……お店で出てくるパスタだわコレ……。
見ているだけで涎が溢れてきそうだ。
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「冷めますよ?」
シンクにフライパンとお鍋とを置き、水を注いだ彼女の手には、ミートパスタ。
わたしがカルボナーラを見ている間に、彼女は自分の分のパスタを作り終えたようだった。
「そんなに珍しいかなぁ……?」
苦笑と共に呟いて、わたしの背中をそっと押してテーブルに誘導する雀ちゃんは、お皿を置くと冷蔵庫から粉チーズを取ってきて、席についた。
「チンして作るカルボナーラじゃないカルボナーラは、お店でしか食べられないと思ってたから」
まだちょっと信じられないくらいで、このお皿の物を食べるのがもったいない。
そんなわたしに肩を竦め、「冷めるから早く食べましょうね」と言って、雀ちゃんは手を合わせると「いただきます」とフォークを握った。
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彼女の手料理をまだ眺めていたいくらいだったけど、仕方なく手を合わせて「いただきます」と、フォークを握る。
早速自分のパスタに、特になんの感慨も無さそうにフォークを突き立ててくるくると巻き取っている雀ちゃん。
――そりゃ自分が作ったご飯なんて見慣れてるだろうけれど……。
彼女の手元にあるパスタも、こちらに劣らず、物凄く美味しそう。
黄色いパスタの上には、赤茶色のミンチたっぷりのソース。ところどころに丸みのあるスペードのような形が見えるのは、マッシュルームだろう。
見ているだけで、やっぱり涎が溢れそう。
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そんなわたしの視線に気が付いたのか、彼女が立ち上がりかける。
「もしかして、愛羽さんスプーン要るひとでしたか」
「え? あ、いらないいらない」
ふるふると首を振る。
違う。
美味しそうだから見つめていただけで、スプーンが欲しくてじっと見てた訳じゃない。第一スプーンが必要なら自分で立って取りに行く。
「本当に? 遠慮とかいいですよ? スプーンの1本や2本」
「遠慮なんてしないから。……ただちょっと、そっちのも美味しそうだなぁと思って見てただけ」
そもそも、パスタを食べるときフォークとスプーンを使うのは、日本人と、海外の子供だけだ。
向こうに行って、大の大人がフォークとスプーンを使っていたら、物凄く白い目で見られる。
でも、日本だと、フォークだけを使ってパスタを食べていると、”わぁ……。”みたいな顔をされる時もあって、どうにも難しい。
わたしの言葉を聞いた雀ちゃんは改めて椅子を引いて立ち上がると、小皿を持って戻ってきた。
まだ口をつける前でよかったとか言いながら、その小皿に取り分けてくれたミートパスタ。丁寧にマッシュルームまでちゃんと取り分けてくれて、わたしの前に置いてくれた。
「……なんか、食い意地張った女でごめんね……ほんと、そっちも美味しそうだと思っちゃったから……」
決して、自分からミートパスタも食べたいから頂戴、と言ったわけではないと主張しておく。
”あっちも食べたいな”と胸の中で思っただけで、口にした訳ではない。
だけど他人の食事まで貰って食べようとしているのは事実で、恥ずかしい。
「いいですよ? むしろ、作った側としてはどっちも美味しそうと思ってもらえて嬉しいです」
と、シェフは天使のように笑った。
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