※ 隣恋Ⅲ~過去 現在 未来。嫉妬~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ 過去現在未来。嫉妬 9 ~
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顔の前で合わせていた手を下ろした由香理さんは、柔らかな物腰のまま、首を傾げた。
「愛羽さんは、相手の好みに変わるのは嫌なの?」
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……やっぱり、結構話の内容を知っている所をみると、この店は声が反響しやすい造りらしい。
わたしは観念して、これも相談するいいきっかけになったのだと頭を切り替える。
「嫌、という訳ではないのだけれど……」
なんというか……。
ごにょごにょと口籠ると、由香理さんは微笑んだ。
「わたしは、恋人に開発されるの、嫌いじゃないですよ。むしろ、すきです」
そのほんわかした笑顔と、言っている台詞のギャップが凄い。
”恋人に開発”というキーワードが余計、生々しさを増していて、わたしは若干狼狽えた。
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まぁ、こんなに可愛らしい人に恋人がいない期間なんてないんだろうし、経験は多いのだろう。だから、こんな台詞が口を突いて出てくるのだ。
「どうして、そう思えるんです?」
由香理さんが恥ずかし気もなく言うものだから、わたしはつい、尋ねる。
だって、わたしにしてみれば、由香理さんの考えはどうにも受け入れ難いものだから。
人に変えられること。自分が変わること。変わる自分を受け入れること。
この歳になると、変化することが、すこし、怖いのかもしれない。
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「相手の望む形に近付けるからです」
なんの迷いも言い淀みもなく、さらりと彼女は告げた。
「例えば恋人が、肉じゃが食べたいって人だったとして、自分は和食づくり苦手。でも、相手の為に練習して、何度か失敗したり試行錯誤した結果、肉じゃがが作れるようになりました。それを食べた恋人はとても喜びますよね?」
「え、ええ……」
いきなり、肉じゃがの話で例える由香理さんもなかなかに面白い人だけれども、言いたい事はよくわかる。
「わたしは……」
ふっ、と、由香理さんが視線を横へ流しつつ店奥のドアをちらと見て、目を細めた。
目尻に刻まれた皺がどことなく寂しそうで、どきりとする。
眇めたその瞳を下から見上げているだけで、切なくなってくるような光を宿した彼女にその真意を見た気がする。
「喜んでくれた顔を見るのが、何よりも好きですし、それが何よりも自分へのご褒美だと思うんです」
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「由」
「お待たせ」
店の奥の扉から蓉子さんが姿を現した。
その瞬間、由香理さんの瞳から切なく寂しい光が姿を消して、わたしは胸の奥がチクと痛むと同時に、驚きに目を見張った。
まさか。そうだっただなんて。
このバーに来るようになって随分経つし、蓉子さんとも由香理さんとも結構話してきた。
でも、ここで、こんなタイミングで由香理さんの気持ちを知ってしまうだなんて。
もしかしたら違うかもしれない。なんて、欠片も思わなかった。
どこか直感的に気が付いたそれはもう、女の勘としか言いようがなく、生憎、非常に正解率が高い。
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やってきたマスターには目もくれず、呆然と由香理さんの顔をみあげているわたしが何に気が付いたのか。
由香理さんも、察したらしい。
彼女は唇の前に人差し指を立てて、少しだけ眉をハの字にして、「しー、ですよ?」と苦く笑みを浮かべた。
「なに? 面白い話でもしていたの?」
マスターが、由香理さんの気も知らず、そんな事を言ってくるものだから、わたしは脛でも蹴ってやろうかと思う。……実際そんな事はしないけど。
「内緒です。愛羽さんとわたしの秘密のお話ですから」
にっこり笑う由香理さんの強さを間近で見せつけられて、わたしは溜め息が出るほどに感服した。
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