※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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スキなひと。
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~ 湯にのぼせた後は 10 ~
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わたしの言葉に、まーの口元の筋肉がヒクと震えた。
明らかに動揺したようなその動きに、こちらは口元に軽く笑みが浮かぶ。
「昨日から、怪しいと思ってたのよね」
「…気付いちゃってたりしちゃったりしちゃった?」
「気が付いていないとでも?」
今度はわたしが椅子の背もたれに体を預けて、腕を組んだ。わたしは脚まで組んじゃおうかしら。
狭いテーブル下の空間で、体を斜めにして、脚を組む。
まーはというと、まるでわたしの部下になったみたいに、両膝にそれぞれ左右の手を置いて、若干俯きがちになっている。
わたしに合わせてくれているのか、それとも自らそういうポーズがしたくてやっているのかは判断つかないけれど、やっぱりこういうまーとのやりとりは細部まで凝っていて気が合うと思う。
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「いやぁそのー」
「なに」
言い訳じみた物言いで、まーがごにょごにょと口の中で何かを言う。
「いやまぁ…なんだ? その、そのうち、言うつもりではいたんだよ?」
「何を」
「だからその……ね?」
ね? で分かる訳ないでしょ。
理解を求めるように、そんな風に言われても分からない。
「えーと、そのー」
「なに」
珍しい。と口にはせず、胸の中だけで考えた。
まーがここまでハッキリ説明をしないこと事態珍しい。どんなことでも大体、さらっと言ったりする。例えば、常務との会話を録音したと言ったときのように。
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そんな彼女が、「うーと」「えーっとね」と唸りながら、言いたいような言いたくないような空気を醸し出しているのだ。
そんな空気を纏われると、こちらとしては、ハワイに行った相手のことを、聞いてもいいのかそれとも良くないのか、分からなくなってくる。
「あーえー……と。その、さ、もーーーちょっと、もうちょっとだけそれ聞くの待っててくれない?」
溜めて溜めて溜めたあと、まーはお願いしにくそうに、そう言った。両手を顔の前でぱんと合わせて、軽く頭を下げる。
言いにくい事なんだったら聞かなかった事にしようかしら、と考えていた所にそんなお願いをされて、わたしは目を瞬かせた。
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「えっと、まー? 本当、言いたくない事だったら別に絶対吐かせようとか思ってないから、大丈夫よ?」
「いや、言いたいのよ。愛羽には聞いて欲しいことなんだけど、あたしの中でもまだ折り合いっていうか、収拾ついてないっていうか」
ごちゃごちゃしちゃってるからさ。と、合掌を解いた手の指で頬をカリカリとかく。彼女が「愛羽には聞いて欲しい」と言ってくれた事は、なんだか他の人達とは一線を画しているようで嬉しく感じた。
「分かった」
わたしは大きく一つ、頷く。
「まーが話してもいいかなって思うまで、わたしは待ってるね?」
「うん」
「ありがと」
「え? なんで、こっちがありがとうでしょ」
「ん? そうかもしれないけど……」
今度はわたしが頬をカリカリと指先でかいた。
さっきからずっと、まーの真似をする人みたいになってる。
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「わたしには話してくれるっていうし、わたしが興味本位で聞いたのに怒る訳でもなく普通に悩んでくれて、そこで自分がまだ喋りたくないっていう考えも尊重して、その上でわたしには”待ってて”って言ってくれた事が、嬉しくて」
へへへ、と照れた笑いを見せてしまう。
だって、ビジネスでは尊敬してて、プライベートではいい友人だと思っている相手から、そんなふうに認められているのだと暗に言われたら……そりゃあ嬉しいし、照れるでしょ。
わたしの答えに、軽く目を見張って、ゆっくりと肩から力を抜いたまーが呆れ顔をわざとして見せる。
「愛羽って、あたしの事結構スキよね」
視線を外し、ビールを飲む彼女の耳が、少しだけ赤くなっているのを、わたしは見逃さなかった。
そういうまーも、わたしの事結構スキなくせに。
小さく笑いながら、そんな意地悪を言ってやろうかどうしようか、すこしだけ迷って、言わないでおいてあげた。
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