隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 76話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
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※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 やっぱり、すぐには無理です。

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 ~ 湯にのぼせて 76 ~

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 さっきまで怖い怖いと私の腕にしがみ付いていた愛羽さんは、そんな様子もすっかり見せずに、旅館の廊下を歩いている。

 切り替えが早いのは良いコトだと思うけれど、あんなふうに怖がっている姿は可愛くてもうすこし堪能したかったのになぁ。なんて心の中だけで呟く。

 実際に声に出してそんな事を言ってしまった日には、人でも殺せそうな目で私は射貫かれることだろう。
 それはちょっと願い下げだ。

 部屋の鍵をぷらぷらと揺らしながら、私の横を歩く彼女からは件の香水の匂いは香ってこない。お風呂に入った後だし、あの香りを鼻に感じられるのは多分、明日のチェックアウトする頃だろうな。

 本人にはさらりとしか言った事はないんだけど、私は愛羽さんの愛用する香水が好きだ。
 最初は、「あ、いい匂いだな」くらいにしか思っていなかったんだけど、彼女と付き合うようになって、この匂いが愛羽さんの匂いだってインプットされたのか、より一層、好きな匂いになっていった。

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 稀に、学校とか街中でロードイッセイプールオムの匂いを鼻に感じたりすると、つい辺りを見回して愛羽さんを探してしまうほどだ。
 それ程に、あの匂いは愛羽さんの匂いであり、私の大好きな匂いになっている。

 なんて香水について延々、考えを巡らせたあと、私はポツリと思う。

 ――……うーん……。困った。

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 どうしよう。
 まさかあの感情がぶり返すことがあるだなんて。
 自分がコドモ過ぎてほとほと呆れる思いだけれども、胸に沸いたあのどす黒い感情は消えなかった。

 ぐるぐると胸を渦巻いて離れてくれないどす黒い感情が紛れないかと、香水について長々と考えてみたのだけれど、無駄に終わってしまった。

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 家があるだろうに、なんであのウェイトレスさんがこんな遅い時間に旅館なんてところに来ていたのかは謎だけど、確かなのは、愛羽さんの話をしていたってこと。

 香水の話を誰かにしていて、なんだか楽しそうだった。

 あのウェイトレスさんは、誰かに話をしたくなるほどに、愛羽さんを気に入っていたということの裏付けになる。
 そう考えただけで、心臓より少し下あたりがカッと熱くなって、その熱が頭に上ってしまいそうだった。

 それではいけないと頭を振ってみたり、他の事を考えてみようとしたけれど、嫉妬心が絡みついて離れない。

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 たかだか話をされて、愛羽さんに触れられたわけでもないのだからと自分を宥めてみても、余計、いらつくだけだった。

 庭から帰る直前、愛羽さんに嫉妬する必要ないと言われて、とっさに笑顔を浮かべられたのは、自分でも偉いと思う。自分で自分を褒めたい。

 愛羽さんには嘘をついてしまった形になったけれど……やっぱり……嫉妬するな、とか、する必要はない、と諭されてすぐに嫉妬しなくなる程器用でも大人でもない私は、ふつふつと沸き上がってくる嫉妬心を胸に隠して、愛羽さんが部屋の扉の鍵穴に鍵を挿し込む様子をじっと見つめた。

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 彼女が先に入って、私が後に続き、後ろ手に閉めた扉に鍵を掛ける。
 戻ってきた部屋には、布団が二組敷いてあって、散歩に出かけるまえに寝転んだせいで、すこしだけ皺がよっていた。

 そろそろ、満腹感でいっぱいだったお腹も落ち着いてきたので、そろそろ、いいかな、と機会をうかがう。

 今夜はこの旅行で最後の夜。初めから、セックスするつもりだったけど、さっきウェイトレスさんの声を聞いて燃え上がった嫉妬心のせいで、余計、彼女を抱きたくなっていた。

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「ちょっとそこまでのお散歩だったけど、結構お腹落ち着いたねぇ」

 テーブルに部屋の鍵を置いた音が、カチャンと甲高く鳴るのを聞きながら、私は愛羽さんを後ろから抱き締めた。

 今日の夕方みたいな乱暴だけはしないように、と心の中で念仏を唱える。

「愛羽さん」

 髪の隙間から覗いた耳に唇を近付けて、少しだけ声の高さを落として、囁く。
 驚いたように動きを一瞬止めた愛羽さんが、間を置いてから、「ん?」と小さく返事をくれた。

 僅かに恥じらいを混ぜたその声に、見られていないのをいいことに、私は笑みを浮かべてしまう。
 だって、そんな反応してるってことは、これから私がナニを仕掛けようとしていると予想出来てるって事だ。

 毎日やってるんだから今日くらいゆっくりしようよ、と断られてもおかしくない状況で、愛羽さんが隙を作っている。

 私だけが、したがっている訳じゃない。

 口元へ浮かべた笑みを引っ込めて、私は小さな耳に口付けた。

「抱いても、いいですか?」

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