隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ 46話


※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※

※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※


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 突然に。

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 ~ 湯にのぼせて 46 ~

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 明日、あの旅館を10時までにチェックアウトしなければならない。
 そう雀ちゃんに説明しながら道を歩く。

「だから、お土産ここらへんで買いたいなら、今日のうちに買っておくといいわ」

 チェックアウトした後に、旅行鞄をもったままお土産を買うのはなかなか苦労するもの。

 見えてきた土産物屋を指差して、首を傾げて見せた。

「寄っていく?」

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 彼女はバイト先にお土産を買いたいのだそうだ。
 わたしは会社と、個人的にまーに買おうと思う。

 土産物屋にズラリと並んだ商品を見て、腕を組む。
 会社にはたくさん数が入っているもの……えーと、コレが一番大きいかしら。あとはまーには、っと……これ、ね。

 わたしが手にとった二つの商品を見下ろして、雀ちゃんが眉をくいとあげた。

「その漬物……お土産ですか?」

 まーへのお土産に選んだのは、漬物。
 黄色くて太い、大根。そう、たくあんだ。

「言っておくけど、これは会社には持っていかないからね」
「よかった」

 あからさまにホッとしている雀ちゃん。
 まさかわたしがこれを会社に持っていくと本気で思ったのだろうか……。

 彼女はたまに、ドのつく天然っぷりを発揮してくる。

「これは、まーにお土産」
「え? まーさん、たくあん好きなんですか?」
「好きなんてもんじゃないわ。毎日食べてるわよ?」
「え゛……」

 うん。わたしも、初めてその事実を知ったときは驚いた。
 でも白米にたくあん、おやつにたくあん、酒の肴にたくあん。といった具合に、彼女はたくあんをボリボリもりもり食べているらしい。

「だから、こういう所の一本丸々漬けてあるのを見ると、お土産にしてあげるの。すごく喜ぶのよ」
「い、意外ですね…」

 という雀ちゃんが手にしているのは、お饅頭の箱。
 どうやらお互い、お土産は決まったみたいだ。

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 土産物屋から出て、ゆっくりと旅館へ戻る道を歩きながら、隣を歩く彼女を見上げる。

「自分用のお土産は買わなくてよかったの?」
「あのコーヒー豆だけで十分です」

 にこにこしながら即答する雀ちゃん。相当、頂いたコーヒー豆が嬉しかったみたい。
 多分彼女は、帰ったら早速あの豆を挽いてコーヒーを淹れるんじゃないかしら。

「残念なのは、あの喫茶店がそう簡単に通える距離にない事よねぇ」

 アイスコーヒーは苦くなかったし、あのサンドイッチはほっぺが落ちそうなくらい美味しかった。カプチーノだって、苦かったけれど、お砂糖を入れたら飲めたし、美味しかった。

 どれをとっても、また行きたい、と思わせる店だった。

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「そうなんですよねぇ……毎日通いたいくらい美味しかったし、マスターもいい人でした」

 今からでもまた行きたい、と言い出しそうな雰囲気で雀ちゃんが零す。
 人を喰ったようなマスターだったけれど、まぁ確かに、雀ちゃんにコーヒー豆くれたし、いい人だとは思う。
 よく人の事揶揄うけど。

「マスターもいい人だったけど、あのなちって名前のウェイトレスさんもいい子だったわ」

 仕事も出来そうだったし、わたしの事綺麗って言ってくれたし。
 見ず知らずの人でもあんなに素直な好意を向けられて悪い気はしない。
 綺麗と言われたのを思い出して、知らず知らずのうちに口角を上げているわたしを見下ろした雀ちゃんの思いを、今のわたしは知る由もなかった。

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 旅館に戻ると、昨日と同じく夕食の時間を尋ねられたので、同じ時間をお願いした。が、カウンターの向こうでわたし達の部屋のキーを握った番頭さんらしき男性は、眉を思いっきりハの字にして申し訳なさそうにおずおずと口を開いた。

「もしよろしければ、そのお食事のお時間を1時間、後にずらして頂くことはできませんでしょうか?」
「え?」
「いえ! 無理にとは言いません! もしできれば、とお願いした次第でして……」

 なんだか両手を合わせて拝み倒されそうな勢いで、番頭さんが言う。

 さっきお昼を食べたばかりだし、わたしは構わないんだけど……と隣を窺うように見上げると、彼女はにっこり笑って頷いた。

 ……でも、番頭さんのこの様子だと、多分、1時間でも足りなさそうよねぇ。

「雀ちゃん、お腹減ってないよね? 1時間と言わずに2時間くらい待てる?」
「余裕です」
「ありがと」

 多分わたしの意図を察してくれた雀ちゃんから番頭さんへ視線を戻したわたしは、彼が差し出してくれた鍵を受け取った。

「お夕食、2時間くらい後にお願いしても大丈夫ですか?」

 え、と小さく驚く声を漏らした番頭さんの目は、これでもかというくらいに見開かれていて、正直怖い。

「よろしいんですか……?」
「ええ。実は今、遅いお昼を食べてきたばかりなんです」
「あああ、ぅありがとうございます……っ!」

 は、激しい……この番頭さん……。
 それはそれは感激したようにお礼を言われて、愛想笑いも引き攣りそうになる。

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「できるだけ! できるだけ早くお夕食ご用意しますので……っ」

 と言う番頭さんに頭を下げて、踵を返す。
 廊下を進んで角を曲がった所で、後ろをちらと振り返った雀ちゃんが小声で言った。

「あの男の人、キャラ濃いですね」
「仕事熱心でいい人みたいだけどね」

 苦笑を漏らして、到着した部屋の鍵を開けて、わたし達は扉をくぐった。

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 時計を見れば、3時と4時の間。

 買ってきたお土産を部屋の隅に置いて、これからどうしようかと雀ちゃんを振り返ろうとしたとき。
 突然、後ろから抱き締められた。

 わたしを包む腕に手をかけて、動けない体はそのままに首だけで彼女を振り返ろうとして、ビクリと肩を震わせた。

「…っ、と…すず、めちゃ……っ」

 首に、彼女の唇が触れて、次にはペロリと舐められる。
 何の前触れもなくされるそんな行為にも、夜の情事の記憶がフラッシュバックのように再生されて、顔が熱くなる。

「急、にっ……ん」

 わたしの首の左側で雀ちゃんはため息を吐く。
 肌を撫でるその吐息にもわたしの身体は過敏に反応して、震える。 

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「……したい……」

 低く、熱の篭った声。
 左の鼓膜を震わせたその声は、わたしの全身にさざ波のような快感を走らせた。

 思わず口から短く息を吐いて、彼女の腕をきゅ、と握る。

「したい」

 重ねられた言葉は、先程よりも強い。
 ジン、と後ろ頭が痺れるような感覚をおぼえるけれど、わたしは必死で、自分の理性を奮い立たせた。

「待って、お風…呂……ぃっ」

 首に当たるこの硬い感触は、歯。
 噛みつかれている。

 その状態のまま、ぬる…と舌がわたしの肌を舐め、歯が離された。

「今すぐ、欲しい」

 言葉と、吐息が、熱い。
 たくさん汗をかいているだとか、シャワーを浴びたいだとか、まだ夕方と言うのも早い時間だとか、色々言いたい事はある。

 けど、言葉が出てこない。

 口から漏れるのは、彼女に引き出された快感を欲するような吐息。

「抱きたい」

 痺れる身体に、わたしはぎゅっと瞼を閉じた。

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