※ 隣恋Ⅲ~湯にのぼせて~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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気の良いオヤジ。
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~ 湯にのぼせて 22 ~
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広がるはコーヒーの香り。ぐるりと見回せば、レトロな置物たち。
――こういう純喫茶の中の雰囲気、好きだなぁ。
趣味が読書、という訳でもないわたしは、喫茶店には仕事をするパソコンを持ち込みたい人間だ。
でも、この昔ながらの雰囲気にパソコンのタイピング音を響かせるほど不躾なことはないと思っているから、なかなか足を運びにくい。
わたしが行くのはもっぱら、スタバだ。
あそこならいくらパソコンの音をたてても誰も文句は言わない。
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この子がわたしの隣に居るから、こうやってこの純喫茶にも来れた訳だし。
未だに輝く目でおじさんの仕事振りに見惚れている彼女をチラと見遣る。
彼女の家にはたくさんのコーヒーにまつわる機械、器具がある。趣味であそこまで揃えている人をわたしは初めて見たし、毎日のようにあの難しい工程を経てコーヒーを飲む人も初めてだった。
インスタントコーヒーなら湯沸かしも含めてせいぜい2分でコーヒーは飲める。
だけど、雀ちゃんが所持している道具でコーヒーを淹れると、約15分程かかる。
彼女は綺麗好きだから、一々全部の道具を取り出して、使って、洗って、戻す、という作業をするからそこまで時間がかかるんだけれど。
それを好きでやっている所がまた、すごいとわたしは思う。
正直、自分が毎日それを繰り返すとなると、一週間続くかどうかわからない。
コーヒーを淹れるというのは見ていても、そのくらい面倒そうな作業なのだ。
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しかし、その面倒そうな作業の後に出てくる雀ちゃんのコーヒーは、美味しい。
やっぱり、インスタントとは違う。素人の舌でもそう感じるのだから、専用の機械器具手順とは素晴らしいものよね。
カウンターの向こうで作業をするおじさんが使う道具のいくつかは、雀ちゃんがもっている道具によく似ている。
ということは、プロが使う道具を雀ちゃんは使っているということ?
改めて、自分はかなり、いいコーヒーを飲ませてもらっているのだと再認識した。
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わたしの仕事や、雀ちゃんの学校やバイトで都合が合わないとき以外は、基本的に一緒に夕食をとるようになった。
そして、その後には食後のコーヒーを淹れてくれる雀ちゃん。
習慣というのは怖いもので、彼女と一緒に夕食を取らなくても、食後にはコーヒーが欲しくなってしまうのだ。
そうなると必然的にわたしはインスタントコーヒーに手を伸ばしてしまうのだけれど、一口飲んだあとはやっぱり、「薄い味」と呟いている。
最近のわたしは、薄味のコーヒーを飲むと無性に雀ちゃんに会いたくなってしまう病に侵されていて、何気に大変なのだ。
バイトで帰りの遅い雀ちゃんのベッドに無断で潜り込んでいたりする。
自分の中で、「薄味コーヒー」=「さみしい」の方程式が組み上がってきていて、大人としてちょっとどうなの、と思っている。
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だって、もういい年した女が、恋人に会いたくて、部屋に侵入してベッドに潜り込むだとか……。
思春期ならまだ許されるような行為を自分がしていると思うと、……頭がいたい。
どれ程彼女を好きになってしまっているのかを痛感させられる。
好きになる事が悪い事とはいわない。
ただ、依存だけはしないように、と常に思う。
前の恋人にわたしは依存していた節がある。
付き合いたてからそうだったとは言わないけれど、ほぼ、デートというデートもしなくなって、毎週体を重ねるだけの関係になっても、彼との関係を絶つ事が出来なかったわたしは……「彼氏が居る」という謎の安心感に依存していたのだ。
……そういう……間違った関係を、雀ちゃんとは築きたくない。
大切にしたい、と思う相手だし、大切にされていると感じる相手。
だからこそ、好き、だけではいけないのだ。
自立し、尊重しあえる関係になりたい。
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チラと横を見れば、わたしの考えなんて露しらずな、相変わらずのキラキラ具合。
夢中になっている彼女に小さく唇の端で笑むと、ウェイトレスさんの声。
「お待たせしました。アイスコーヒーです」
するりとわたしと雀ちゃんの間をグラスが通り抜けてカウンターへ置かれた。
「ありがとう」
彼女へ微笑むと、何故だか慌てたように「あっ、ハイ!」と顔を赤くする。
ウェイトレス、慣れている様子だったけれど、新人さんかしら?
内心、首を傾げるも、そんな質問を投げかける訳にもいかず、置かれたグラスに目を移した。
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「どうぞ」
雀ちゃんのブレンドが来るまで待っていようと思ったんだけど、横からそんな声。
ここで遠慮するような仲でもないし、せっかくのドリンクが溶けた氷で薄まってもマスターに申し訳ない。
「いただきます」
微笑む雀ちゃんが、”ご自由にお取りください”とカウンターの隅に置かれたガムシロップをひとつ手元へ置いてくれる。
わたしが苦いものが苦手だという事を知っている証拠。
「ありがと」
気の利く彼女よね、ほんとに。
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そんな気の利く彼女も知っての通り、わたしは、一口頂いてから、ガムシロップやミルクを入れる。
いつも通りに一口、アイスコーヒーを飲むわたしを、雀ちゃんは見下ろす。
わたしがいつもやる”にがぁい”と顔を顰める様子が面白くて好きらしいんだけど…………コレ、苦くない。
「ん?」
え? コーヒー、なのに?
ガムシロップも何も入れてないのに? え?
頭上にクエスチョンを浮かべたまま、ストローをもう一度咥える。
そんなわたしを不思議そうに雀ちゃんは横から眺めてくる。
「苦くないんですか?」
「……。ん」
美味しい。苦く……ない!
わたしは彼女に飲んでみるようにグラスをすすすと差し出した。
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「あれ、ほんとだ。飲みやすい。すごくスッキリして……ぅわー、なんの豆だろう。すごいな」
一口飲んだあとに、興奮した様子で雀ちゃんは瞬きを繰り返した。
やっぱり気になるのは、そこなのね。
戻ってきたグラスのストローをぱくと咥えて、初めてブラックで飲んだコーヒーが美味しいと思えたなぁと、プロの技に感嘆する。
雀ちゃんの言う、”豆”の関係もあるだろうけれど、”淹れ方”とか”勘”とかもあるんじゃないかなぁ。
長年そのカウンター内に立っているであろうおじさんに目を移せば、彼は雀ちゃんがオーダーしたオリジナルブレンドを仕上げたところだった。
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彼はウェイトレスを経由することなくカウンターへカップを静かに置いた。
「お待たせしました。オリジナルブレンドです」
低くて渋い。いい声。
わたしは仕事柄、年上の男性と接する機会も多いのだけれど、その中でもかなり上位に入る良い声だわ。
思わずマスターの顔をまじまじと見れば、彼はこちらへ視線を向けた。
「美味いかい、お嬢ちゃん」
お…お嬢ちゃん……。
「ええ。とっても美味しくてびっくりしたくらいです」
まぁ確かに、彼からしてみれば、わたしみたいなのはまだまだヒヨッ子かもしれないけど……。
なんて、ちょっとムッとした事はおくびにも出さず、わたしは笑顔を向けた。
仕事で培った愛想全開の営業スマイルをみせたはずなのに、マスターはこんなことを言う。
「まぁそんなむくれるなよ」
――見抜かれた。
驚きにピクリとだけ片眉を動かしたわたしをクツクツと喉の奥で笑うと、彼は意地悪く唇の端をあげる。そのニヒルな笑い方が似合う強面。
お酒を片手にタバコでも咥えればそれはもうヤのつく方のよう。
「むくれてなんか……」
「まだまだだなぁ、お・嬢・ちゃん」
一句ずつ区切って言う彼が、揶揄う気満々なのがひしひしと伝わってくる。
な、なんなのこのおじさん……!
「ほぉわあぁ、美味しい!」
わたしの営業スマイルにケチをつける……もとい、嘘の笑顔と見抜くほどの眼力をもつおじさんを見上げるわたしの横で、妙な声を上げた雀ちゃん。
どうやら、オリジナルブレンドのあまりの美味しさに思わず声を漏らしてしまったようだ。
「美味いか、嬢ちゃん」
「はい! とっても!」
「そうかそうか」
マスターはご機嫌に何度も頷く。
そして一言、満足そうに言った。
「俺の腕と豆はピカイチだな」
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