隣恋 第1話  本当に、困る

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 本当に、困る。

 ……いや、直接的危害はないにしても、これは困ったものだ。ホント。

 右隣の部屋に向かうように配置してある勉強机についたまま、私は腕を組んで唸った。

「……ぁっ…………んぁぁっ……あ……だめ、だからっ…………」

 いやいや。
 徐々に声大きくなってるんだけど。
 心の中でツッコんで、溜め息をつく。

 私は絶対に、火曜日の夜は人を部屋に招かない。
 隣の部屋から、ギシアンが聞こえるからだ。


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 聞きたい訳ではないが、耳に入るギシアン。
 ちなみに、ギシアンとは、ベッドぎしぎし&声アンアンの略である。

 まぁつまり、私の部屋の右隣の住人は、只今セックス真っ最中なのである。

 このセックスは、毎週火曜日が恒例となっていて、どうやら、社会人の彼氏さんの休みが毎週水曜日らしいと判明している。

 私は組んでいた腕を解いて、かしかし頭を掻いた。
 隣からの声はまだ続いている。

 まったく羨ましいことだ。私には彼氏がいない。
 いや……彼氏は作るつもりないからいいんだけど、彼女は欲しい。

 ちなみに、私は女性である。
 つまり、世に言うレズビアンである。


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 いつまでもこの声を聞いていても、どうせ勉強に集中できないし、風呂にでも入ろうか。

 思い立ち、着替えを持ってリビングから廊下へ出て風呂場へ向かう。
 脱衣場で全部服を脱ぐと、下着に微かな染みができていた。

 隣からのギシアンの直接的迷惑を挙げるとすれば、勉強の妨害と私の性欲が煽られて困る、といったところか。

 なにしろもう、聞こえてくる彼女の声は半端なく、いいのだ。

 可愛いし、私の好み。
 だめ、とか言っててもたまに、気持ちいいとかもっと、とねだっている上擦った甘い声はイイ。
 結構本気で、抱いてみたい。

 たまに見かける彼女の容姿も私のストライクゾーンなんだから、問題はない。
 でも、ノンケで彼氏持ちは、レズビアンにとってとてつもなく高いハードルなのである。

 私は頭から冷たいシャワーを浴びて、深く深く溜め息をついた。


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