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「テレクラって何か、この子に説明してあげてくれない?」
え? ……え? 愛羽さん、謂れなき罪の話はどこ行ったんですか……?
突然始まった話に目を点にしたのは、私だけではなかった。
画面に映っている人も、『は?』と短く声を発したきり、歪にした眉を動かさない。
「だって聞いてよまー! 雀ちゃんったらテレクラがえっちな電話の事だって説明しても、信じてくれないのよ!?」
ぱん、と自分の腿へ手を打ちつけて憤慨を表す愛羽さん。
「テレワークがテレクラだとか言い出すし、両方ちゃんと意味の説明しても信じてくれないし。まーからちょっと言ってやってよ」
愛羽さんは私を指差しながらぷくりと頬を膨らませてそう応援要請をしているけれども、ちょっと待ってくださいよと言いたくなる。
だって、「両方ちゃんと説明して」くれたのは今朝の話だ。サプライズをしたかったからという可愛い理由があれども、私は昨日から一晩謎の単語たちに悶々とさせられていたんだぞ? そこの所の酌量や、テレクラの説明のあの渋り様や流れや状況も、まーさんにはきちんと分かって頂きたい。
その願いが通じたのか。はたまたいつものように私の顔に思考が表出していたのか。
固まっていたまーさんが、ちょっとニヤつきながら腕を組む。
『なんか、すずちゃんも言いたげだけど?』
「だって愛羽さん昨日から意地悪なんですもん。その意地悪続きで嘘ついてるような気がして怪しんでるだけですもん」
こっちだって、愛羽さんに負けず劣らず頬を膨らませたい心境だ。
『意地悪って?』
「テレワークの意味教えぐっ――」
「――そんなことまで言わなくていいから……っ!」
きちんと事情や状況を解説しようと喋っていたのに、いきなり口を手で押さえられた。
その犯人はもちろん愛羽さんで、引き続き私の口を手で塞ぎながら焦ったように、パソコンに向かって「なんでもない! やっぱりいいから!」と叫んでいる。が、にやついた彼女の上司は、まるでトンボを捕まえる寸前のように、立てた人差し指をこちらに向けてくるくるくると回していた。
洋画とかでたまに見る仕草だ。
相手を責めるというか、観念させるというか。黙らせる時に用いられているジェスチャーな気がする。
「ぅ……う……」
そのジェスチャーにどれほどの威力があるのか、傍から見ているだけでは体感こそできないけれど、その指を向けられている――向けられたと自覚がある人にこそ、効果は覿面らしい。
愛羽さんは小さく唸りつつ、渋々、私から手を退けた。
すごいなまーさん。なんか、今の一瞬で上下の力関係を見た気がする。
『で? 意地悪って?』
私の口から愛羽さんの手が離れたところでもう一度まーさんの問い。
それに対し私は嘘偽りなく、昨日の夜にテレワークの話が出た事。そして愛羽さんがその意味を「明日になれば分かる」と言って教えてくれなかった事。私がテレワークとテレクラは何か通ずる物があるので話題に上らせたものの愛羽さんはこれまた説明をしてくれなかった事。続けて、今朝になってようやく二つの言葉の説明をしてくれた事と、テレクラはえっちな電話だと愛羽さんは説明してくれたものの、詳しい内容を教えてくれないし、知ってるけれど知らないなどとちぐはぐな説明をすることもあって、嘘をついているのではないかと私は思っている。
そんなふうに全てを説明したら、まーさんは話の途中からずっと手で隠していた顔の下半分をようやく見せて、手を叩いて笑い始めた。いや? この感じからするに、もしかするとまーさんはずっと笑っていたのかもしれない。笑いを堪えてたのかな? と思うくらいに顔色がちょっと紅潮している気がしなくもない。
ちなみに、私の左隣の愛羽さんは何故だか知らないがソファの上で膝を抱えてそこに顔を埋めている。
顔の横には髪がぱさっと下りてしまっていて、彼女の顔は見えないんだけど……拗ねてるのかな?
ひとしきり笑った後、まーさんは目尻の涙を拭いながら、片膝を立てて座るとそこで頬杖をつく。
大笑いの名残りでにやついた顔のまま、『仲良しねぇ相変わらず。リア充爆発しろも言い飽きるくらいに』とお馴染みの台詞を引き合いに出してくる。
『ねぇすずちゃん。うちの部下は可愛いでしょう?』
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