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謂れなき罪? なんだそれ?
首を傾げてる間に、愛羽さんのPCにまーさんの顔が映った。
おお! すごい! まーさんが手を振ってる! 何気に、彼女の私服姿を見る機会の少ない私は、ラフなVネックセーターを押し上げる双丘の谷間に動揺した。
い、いや別に見ようと思って見た訳じゃなくて! テーブルが低いんだよ! まーさんのPCが低い位置にあって胸がバッチリ映るだけ! んでまーさんがちょっと前屈みだから映るだけ!! 私が悪いんじゃないからな……!?
『見えるー?』
左耳に入ったイヤホンから、まーさんの声がした。
すごいなぁ今時はこんなの出来るのか。
声と映像、僅かなラグはあるけれどちゃんと見えるし、聞こえる。必要もなければ興味もなかったのでこういう物は使った事がなかったけれど、やろうと思えばPCとネット環境でこういう通信もできるのかと感心している私の横。
愛羽さんは小さく頷いて手を振り返している。
「見える。けど真紀それ胸見えてるから着替えて」
『あ? そう? 別に見られても構わないけど』
やっぱり愛羽さんも思ってたんだ。まーさんの胸見えるって。
まぁWeb会議するのはきっと男性社員さんも居るんだろうし、あんまり良くはないよねぇ。なんて、呑気に考えていると。
「うちの子が反応してるからさっさと着替えて」
一段低くなった声がそう告げて、私はビシリと体を固まらせた。
まーさんは笑った後に『いやんもうすずちゃんのえっちぃ』とか言いながら立ち上がって画面外へ消えていったが、私としては「待ってください!! 置いていかないで!! 二人きりにしないでっ!!」と縋りたい気分だ。
まさかさっきの一瞬だけでバレてたなんて。
横並びにソファに座ってるだけなのに、なんでバレてしまったんだ。
ていうかどこで、私の何でバレたのか。
何も喋ってないしヘンな動作も我慢してしなかったっていうのに。
私は冷や汗をだばだばと滝のように流しながら、ほんのちょっと、すこーーーしだけ、眼球を動かして左隣の恋人を窺う。
「……」
じろり、どころではなく。
ギロリ、と睨まれた。
そのうえ間髪入れず、鋭い舌打ち。
「ごっごめんなさい!」
「スケベ」
「ごめんなさいごめんなさい!」
「節操無し」
「すみませんごめんなさい!」
加減の無い拳が私の二の腕へドスと撃ち込まれた所でまーさんが戻ってきて、『どっこいしょーぉ』と席に着く。
正直助かったと思いながら、パーカーに服装チェンジしているまーさんを見遣れば、いついかなる時でも冗談を思い付くかの人物はジップアップパーカーのスライダーを指先で摘まんで2、3センチ引き下げながら胸元を開き『もっと下ろして欲しい?』などと訊いてくる。
即座に横から拳打が繰り出されて二の腕が重く痛む中、私はめちゃくちゃ早口で「いいですいいです上げといてください閉めてください」と頼み込む。
マジで今は余計なことしないでくださいまーさん! と心の中で懇願を飛ばしていると、画面の向こうの人は遊びに満足したのか、スイッチを切り替えたかのように『通信的には問題はなさそうね?』と愛羽さんに話し掛け始め、私に正義の拳を振るっていた愛羽さんもそれに倣うよう仕事モードになって「うん、大丈夫そう。あとは誰かを入れて複数でやってみてどうなるか、よね」とこの後のことを案じている。
そこに私が口を挟む余地はなく、黙ったまま二人の会話を聞いていたんだけど、愛羽さんが「それでね? 全然話変わるんだけど、まー」と切り出したので居住まいを正す。
たぶん、さっき彼女が言ってた謂れなき罪って奴の話だと思う。
罪って言うくらいだから結構大層な話になるのかなと心構えをする私の左隣で愛羽さんは画面の向こうへ言った。
「テレクラって何か、この子に説明してあげてくれない?」
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