テレワークパロディ 聞きたい気持ちをぐっと堪えたんですけど…… (6)

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「おっけ。ぁ、雀ちゃん、ありがとう」
「いえ。とりあえず、どうしたらいいですか?」

 戻って来た私に微笑んでくれる愛羽さんだが、やっぱりどことなく雰囲気が仕事モードだ。
 それに合わせて私も手早くパソコンを起動して、彼女が手招きしたソファに座る。ローテーブルには既に起動させた愛羽さんのパソコンが置いてあって、私のそれを横に並べればテーブルの横幅はいっぱいだ。

『ありがとねーすずちゃん』
「いえ。今日大学ないんで、丁度良かったですお役に立てて」
『助かったわ。とりあえず、そっちに送ったURLに飛んでもらったら、会議室に入れるからやってみて?』

 会議室? と脳内で首を捻るも、二人の始業時間が迫っているので私は質問もせずにまーさんの言葉に従う。

 送られたメールに記載された青文字のURLをクリックすると、よく分からない画面が開いた。なんだこれ? と思っていると、横から私のPC画面を覗き込んだ愛羽さんが「こうなるんだ」と呟いたのち、まーさんへ向けて「やっぱりアプリインストールした方がスムーズと思うわ。この際、登録してアカウント作ってもらう負担は仕方ないでしょ」と言っている。

 そこで初めて私は、自分のPCと愛羽さんのPCを見比べたが、なんか……違う。
 たぶん、だけど、愛羽さんはすでにアプリのインストールを済ませているように見えた。

『そっかー。やっぱり結局登録必要か。面倒だからその作業スキップできればと思ったんだけど仕方ないわ』
「まぁ急に決まったことだし、午前は今後の準備に使いきってもいいんじゃない? 業務のフォローはわたしがするから、まーはこの作業に専念してもらって」
『ええええ~~管理めーんーどーくーさーいーもーーん。あたしも業務がいい。愛羽やって』
「イヤ。めんどくさい」
『上司命令』
「拒否」

 きっぱり愛羽さんが仕事を断っているなんて珍しくて、見ててちょっと楽しい。
 この二人、会社でいつもこんな感じで喋りながら仕事してるのかなぁ?

 愛羽さんは上司に向かって「めんどくさい」とか「拒否」とか言ってるし、終いには「がんばれがんばれ。うちのトップでしょ?」とにやけながら励ましている。その態度は、対上司って感じではなくて良き友人を鼓舞しているようだが、それをまーさんが良しとしていて、この関係性が、雰囲気が、成り立っているのだろう。

 微笑ましくやりとりを見守っていると、二人は今からテレビ電話もといWeb会議というものを試してみるらしい。
 PCカメラなんて初めて使うわ、と独り言ちる愛羽さんはどこから取り出したのか白いイヤホンをPC本体横のイヤホンジャックに接続している。

 どうやら私と私のPCはあんまり役に立たなかったらしい。残念。
 試運転をするみたいだけど、私はそろそろ自宅へ帰ったほうがいいかなぁ? なんて思っていると、急に耳に捻じ込まれたのはイヤホンの片側。びっくりして体を引けばポロリと外れたそれのもう片方は、愛羽さんの耳に入っている。

 咄嗟に謝るけれど、私にイヤホンの片方貸してくれるって……え? なんで?
 私もまーさんとのWeb会議に参加しろってこと?

 彼女の意図が分からずきょとんと愛羽さんを見つめ返せば、拾い上げたイヤホンの片方を私の耳へ捻じ込みながら愛羽さんは「謂れなき罪を真紀大先生に解いてもらうんだから」と、言っている。

 謂れなき罪? なんだそれ?
 
 首を傾げてる間に、愛羽さんのPCにまーさんの顔が映った。





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