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そんなことを考えていると、愛羽さんの懐でケータイが鳴り始めた。
着信だ。
「ごめん、出るね」
抱き締める腕を緩めれば、愛羽さんがポケットからケータイを取り出してすぐ耳に当てた。チラッと見えたディスプレイにはまーさんの名前があったから、きっと仕事の事だろう。
この体勢でいいのかなぁと首を捻りたいが、既に愛羽さんは「もしもし?」と電話に出ているし、私の膝からは退ける気配もなさそうだし、まぁいいか。
『もっしもーし。おはようあのさぁ、テレビ電話の試運転したいんだけどちょっとPC起動してくれない? もし居て暇そうならすずちゃんにも頼みたいんだけど』
超至近距離に居るせいで、スピーカーモードにしなくても通話が聞こえてきた。
そしてその中に自分の名前が登場して目を丸くする。つい「私ですか?」と口を挟みそうになる自分を制御するために口元を力ませて静かにしていると、愛羽さんがこちらを見て、小さく笑った。
目尻をちょっとだけ緩めるような密かな笑みのあとは、ケータイを持たない方の手で私の前髪をわしわしと撫でてくる。なんとなく”静かにしようとしててえらい、えらい”と褒められたような気がするのは……あながち、ハズレではないと思う。
ケド、なんていうか、さっきまで愛羽さんだったのに、電話が始まった途端仕事モードに入って金本次長になるの、すごく心臓に悪い。
めちゃくちゃ、どきどきする。そういう愛羽さんに頭撫でられると、余計、どきどきする。
そんな私を他所に、
「複数同時に繋げられるかどうかってこと?」
『そ、そ。こっちが招待するから入ってもらうだけでいいんだけど、頼めそう?』
と、軽やかに会話は進んでいて、前髪を撫でていた手がとんとんと私の頬をノックしてきて、次長さんが小首を傾げて尋ねてきた。
ジェスチャーしかなかったけれど、明らかに私に協力の可不可を問うものなので「いいですよ」と口に出して答えれば、次長さんからは微笑みが、部長さんからは『お? リア充爆発しろおはようすずちゃん悪いんだけどよろしく』という内容的に忙しないお言葉が返ってきた。
どうやらソッコーで、私と愛羽さんが超至近距離に居たとまーさんにバレてしまったらしい。
「こっちにパソコン持ってきますね」
たぶん、やり方とか聞きながらになるから同じ場所に2台パソコンがあった方がいいだろう。
そう思って愛羽さんを膝から下ろそうとしたら、急にキスされた。
え。
と思った時にはもう愛羽さんは音も立てずに私から離れていて、さらには茶目っ気に片目を閉じつつ、唇の前へ人差し指を立てている。
こちらはいつもの「ぅ」を発する暇さえもなかった出来事に目を丸くして顔を赤くするなんていう芸当をこなしながら、金本次長と森部長のお仕事話を背に、玄関経由で自宅へ戻ったのだが、流石に、さっきの不意打ちのキスは私の恋人が可愛い過ぎて、一旦玄関でうずくまった。
本音を言えばしばらくこうして膝を抱え、手のひらに顔を埋めて、恋人の可愛さについて悶え続けたい心境なのだけれど、私はまーさんからのお願い事を請け負った身。
ときめきに痛む胸を撫でながら、パソコン片手にベランダ経由で愛羽さんの家へとお邪魔した。
そこではスピーカーモードに切り替えられた『――っちゃうから、背後には十分注意して、作業場決めた方がいいわよ』というまーさんの声が聞こえる。
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