テレワークパロディ 聞きたい気持ちをぐっと堪えたんですけど…… (4)

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「テレクラの意味教えてください」
「ええ? 嫌よ」
「だって、昨日も今日も、愛羽さんの言う事ちゃんと守ってたんですよ? ご褒美の1つくらい、あっていいと思いません?」
「ええー……?」

 やだなぁと顔に大きく書いてあるけれど、私が彼女の細い腰をがしりと抱いて離さないでいると、愛羽さんはチラと壁の時計を見遣った。
 このままでは9時になっても解放してくれないとでも思ったのか、小さく嘆息を吐いた彼女が渋々ながらに頷く。

 あれ? もうちょっと渋ったりするかなと思ってたのに意外とあっさり了承したなぁ。
 少し予想外な反応に私が腕を緩めれば、愛羽さんは肩を押してきた。

 押されるままに私はソファに倒れる。ひじ掛けを枕にするみたいにして仰向けになった私の胸の上へぺたんとうつ伏せになる恋人は、正直かわいい。

「まぁ確かに、ちょっと意地悪だったかなっていうのもあるし、雀ちゃんの今後の為の教育って形で教えるのもやぶさかでないけど」

 言葉を区切って、愛羽さんはぐっと顔を近付けてくる。
 あと一秒隙があればキスでも迫られたかと勘違いして口を突き出しそうになった私の耳元へ近付いた愛羽さんは、小声で喋り始めた。

「テレクラってね?」
「はい」

 こくこく頷きつつも、ちょっと吐息がくすぐったい。
 あと、極力抑えられた小声、所謂ウィスパーボイスが、だいぶ、えろい。

 そんなくだらない考えを抱いたせいなのか、愛羽さんがいきなりふざけ始めた。

「えっちな電話のことよ?」

 ……。
 愛羽さんでも、そういう冗談、言うんだなぁ。めちゃくちゃ意外だなぁ。

 そんな感想を抱きつつ私は数拍の間ののち、「いやいや。ホントの事教えてくださいよ」と呆れ混じりに頼む。テレクラってなんだろうって昨日からずっと考えてて答えを知りたい気持ちは十二分な程あるのだ。あまり焦らされても、うれしくないぞ?

 だけど愛羽さんは、ぺちと私の肩口を軽く叩いて「本当だってば」と追加でふざけてくる。
 らしくない冗談に慣れていないからか、冗談を押し通そうと意固地になっているらしい。その点は、負けず嫌いの愛羽さんらしい。

 が。

「嘘はだめですよ? 愛羽さん」

 この体勢では頭を撫でてあげられないから、触れていた背中や腰を撫でつつ、諭す。なのに愛羽さんは「嘘じゃないってば! ほんとにえっちな電話のことテレクラって言うの」と意見を曲げない。

 うーん……この感じだと、少し嘘に付き合ってあげないと満足しないのかなあ……。

「えっちな電話って言いますけど。じゃあ、テレクラってどんな事するんです?」
「しっ、知らないわよそこまで!」
「ほらぁ、やっぱり言えないじゃないですか。嘘は駄目ですよ」

 すぐに墓穴を掘っているのでツッコむと、彼女はぱしぱしと肩口を叩きながら「違うの! 知ってるけど知らないだけ!」とか謎な発言をするのだ。
 これは愛羽さん益々意固地になってるなぁ、仕方ないなぁ。

 私は胸中で嘆息を吐くと、起き上がって彼女を抱っこした。相変わらず体重が軽くて、胡坐をかいた私の膝上へ乗せるのは簡単だ。

「ちょ、ちょっと雀ちゃん……!」

 焦っているのは、嘘が嘘とバレているからか、それとも膝に乗せられたからか。
 まぁどちらでもいいんだけど、私は愛羽さんを抱き締めて、背中を撫でてやる。

「私をハメるためにそういう際どいネタをチョイスしたのは分かりますけど、引っ込み付かなくなったからって頑張り続けなくていいですよ。愛羽さんそういうエロネタ苦手でしょう? いいですよ無理しなくて」
「だから違うんだってば! ほんとなの!」

 うーん。抱っこしてもまだ落ち着かないかあ。これはしばらくこうしててあげないとダメだな。

 そう判断した私は愛羽さんを抱き締めたままウンウンと頷いて、ヨシヨシと背を撫で続ける。そんなふうに諭され宥められると余計荒ぶりたくなるのか、愛羽さんは「もー!」と唸っているが、私は気にせず引き続き抱き締めて撫でる。

 泣いて泣いて仕方なくなった時の琴子の相手をしてる気分だ。ケド、琴子みたいに全力で抱っこから逃れようとはしないので、まだ愛羽さんの方がマシである。




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