テレワークパロディ 聞きたい気持ちをぐっと堪えたんですけど…… (3)

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 できるのか……? あいや出来るか。愛羽さんいつも家で持って帰ってきた仕事してるもんな。

「今はこのご時世でしょう? 出来るだけ人と会わない。接しない。それを第一に考えると出勤しないっていうのが必要。だから、各自家で、自分のパソコンを使って仕事をするの。ちなみに報連相は電話。テレビ電話? みたいなのができるソフトを今日午前中まーが皆に教えて導入するっていう手筈だから、そっちが主流になるとは思うけど」
「じゃあ、今日は、愛羽さん家に居るんですか?」

 自分でも、自分の顔が輝いてるのがわかる。
 そんな私の頭を撫でながら、彼女は頷いた。

「うん。今日は、と言わずにしばらくは居るの。いつテレワークが解除になるかは分からないし、次長だからやっぱり出社が必要になる時もあると思うから……その時は行くんだけどね?」
「やった」

 そうなんだ……! 愛羽さん、しばらくずっと家にいるんだ……! テレワーク万歳!
 内心両手を上へ挙げて喜んでいるものの、流石に、実際それほどの動作をするのは控えておいた。

 愛羽さんはにこにこしながらも「わたしはお仕事あるんだからね~?」と喜ぶ私の頬をむにむにと摘まんで咎めているけど……機嫌がいいのは、少なからず私と同じ気持ちがあるからだろう。

「お仕事は、9時からですか?」
「うん。9時になったら皆でまーにメール入れるのよ? わたしは今パソコンの前で仕事始めてまーす、って。そんなの必要? って思うけどね、やっぱり目の届かない所に居るとなると、そういうので縛らないとダメみたい」
「大変なんですね」

 私には苦笑するしかない話で、慰めるように愛羽さんの頭を撫でれば抱き着かれた。

「だから9時まで構って?」

 語尾にハートマークがつきそうなくらいの可愛い声でねだられると、断る訳にはいかない。元々、断る気なんかさらさらないけど。

 嬉しいなぁ、愛羽さん、いつもならこの時間にいないけど、家に居る。もしかすると、お昼ご飯も一緒に食べられるかもしれないし、うれしいなあ。
 抱き着いてくる愛羽さんが可愛いからか。さっきの猫撫で声が可愛いからか。彼女が自宅勤務になって嬉しいからか。どれでなのか分からないけれど、胸の辺りがきゅんきゅんする。

「大好きです、愛羽さん」
「ん~? わたしも大好きよ?」

 いきなりね? と云いたげな視線をこちらへ浮かせてきた愛羽さんだが、もちろん応じて甘い返答をくれる。うれしい。あと、かわいい。

「その大好きな愛羽さんが家に居て、うれしい?」
「はい」
「んふふ、いい返事」

 聞かれた質問に答えただけなのに、撫でられる。
 なんか、特した気分だ。ただ答えただけなのに。

「やっぱり昨日テレワークの事教えなくてよかったわ。十分びっくりしてくれてたし、そのうえこんなに可愛い反応見せてくれるんだもの」
「昨日の意地悪はこういう魂胆だったんですか」
「そ。貴女がどんな反応するのか見てみたかったの」
「時間指定もその一環ですよね?」
「そうよ?」

 ケロリとした顔で頷く愛羽さんが嬉しそうにしてるし、その顔を見れたからいいけどさぁ?
 昨日はテレワークの謎すっごく気になってたし、今日、さっきだって何の用事だろうとか怒らせちゃったのかなとか思って気が気じゃなかったんだぞ?

 メッセージの返事が素っ気なかったのはたぶん、サプライズが万が一にもバレてしまわないように配慮した結果ああいうドライな感じになってしまったのだろうけど。

 そんなふうにちょっぴり不満を抱いた私は、愛羽さんを抱き締めたまま、おねだりをしてみた。
 昨日と今日、愛羽さんの思うままに操られた代償を求めたのだ。

「テレクラの意味教えてください」



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