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「いい子ちゃんのアンタに免じて、今月の既に決まったシフトに関しては、勤務してなくてもお金あげる」
「ええ!? タダでくれるんですか!?」
「タダな訳ないでしょ」
「えぇ……?」
お金くれるのにタダじゃないって……どゆこと? ぬか喜びさせるんだからもう……。
私の落胆ぶりにニヤついた店長は、説明してくれた。
とりあえず、急に店を閉める申し訳なさもあるから、給料の前借、という形をとるのだそうだ。
普通、労働時間と賃金を交換する形でアルバイトは給料をもらう。
でも今回に至っては、希望者は労働時間献上なしで、賃金が貰える。
だけど、お店の営業を再開してからは、その賃金分の労働時間献上を要求されるらしい。
「……つまり、至急お金が必要な人に給料って形でお金くれるけど、後にタダ働きしろよ、と?」
「そう」
先にお金だけ受け取ってるから、正確にはそれはタダ働きじゃないんだけど。
「でもそれ、お金だけもらって辞めたら……どうするんです? 損ですよ?」
「そんな輩がうちにはいないと信じたいけど、まぁそうなったらそれなりに制裁加えるわねぇ」
アンタに至っては兄貴二人から徴収する、と店長は楽しそうに脅してくるが、そんなドロボーみたいなマネしないよ。
それまで黙って説明に耳を傾けていた遥さんが、「わたしはそんな親切裏切られたらダメージ受けるの怜なんだから止めなさいって言ってるんだけど聞かないのよ、この子」と呆れの視線を寄越しているが、店長は明後日の方を向いて口笛を吹いている。
――ほんっと……店長って素直じゃないくせにめちゃくちゃ優しいよな。
「さて。報告終了」
「? なんのですか?」
「え? 愛羽ちゃんに。雀ちゃんがとってもいい子だっていう報告」
「し、しなくていいですよそんな報告……」
さっきからケータイ触ってるなぁとは思ったけど。
なんかタコパした時くらいから、遥さんと愛羽さんってめっちゃ仲良くなったよな。
「あ。そうだ、遥さん、ちょっと聞きたいんですけど」
そんなふうに愛羽さんを脳裏に過らせたからか、ふと、テレワークについて思い出した。そうそう。聞けるタイミングが来たら、聞こうと思ってたんだよね。
遥さんならあの謎の答えを絶対知ってるはずだと確信はある。なんせ、遥さん自らその単語を口にしたのだから意味を知らない訳がない。
が。
「ふっふっふ。聞いたわよ? テレワークが何か、雀ちゃん教えてもらってないんですって?」
「え? あ、電話で聞いたんですか?」
そっかー。さっき愛羽さんと通話してたもんなぁ。くっそぅ、先回りで口止めされちゃったか。
「きっと雀ちゃんがテレワークって何か聞いてくるけど教えないでくださいってお願いされちゃった」
語尾にハートマークでもついてそうな猫撫で声で遥さんは楽しそうにしてるけど、なんでそうやって皆してイジワルするんだろう。
「明日になれば分かるんだから、いいじゃないの。一晩くらい我慢しなさい」
口を尖らせる私を宥めるというよりは、我慢を強要してくるのは店長だ。その口振りからしてどうやら店長も愛羽さんから口止めをされているらしい。
「店長まで愛羽さんの味方なんですか? 私のボスなのに?」
同じタチだしちょっとくらい私に味方してこそっと教えてくれたっていいじゃないかと文句を言えば、また頭を撫でられた。
「アンタの彼女の可愛いお遊びに付き合ってあげなさいよ」
「そうそう。愛羽ちゃんだって、明日を待ち遠しく思ってるんだから」
「? そうなんですか??」
そうだ。とオーナー二人が大きく頷く。
そうなのか。二人がそこまで言うなら、そうなんだろうな。
じゃあ……。
「がまんします」
二人の顔に免じて、って感じで、私は我慢を決めて、愛羽さんと同じく、明日を心待ちにするのだった。
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