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期待を胸に再度尋ねれば、「教えていいんですかね?」「もうこの歳だしいいんじゃないかしら」と相談を交わし、頷きあった二人。
なんか、いい雰囲気だ。これなら……。
「え! 教えてくれるんですか……っ?」
「教える教える。教えるけど、一応、どういう経緯でテレクラが話題に出たのか、先に教えてもらっていい?」
まーさんの言葉に私は何度も頷き、かくかくしかじかと愛羽さんとの会話をそっくり再現してみせた。その際、「テレクラ!?」と発言した瞬間には大人二人が大爆笑していたし、まーさんはカウンターを叩いて喜んでいたので、テレクラというのはもしかすると、ギャグの一種なのかもしれない。
自分でも、どこで聞いたのか仕入れたのか、全く覚えていないその単語。
愛羽さんとの会話を再現し終えた私が「テレクラって一発ギャグかなんかですか?」と訊けば、また二人は腹を抱えて笑っていた。
「ひー……あー……笑った。明日腹筋筋肉痛だわ。じゃあそろそろ、すずちゃんに教えてあげよう」
お腹をさすり、まーさんは改まって姿勢を正す。
おお、ついに。
ついに、テレクラの謎が解き明かされる時がやってきた……!
ううんっ、と咳払いをしたまーさんは、目尻の涙を指で拭っている店長へ確認の視線をやって、ゴーサインを得て、こちらへ向き直った。
ちょっとドキドキする。緊張の瞬間だ。
が。
「テレクラとは、えっちな電話のことである!」
まーさんがピッと人差し指を立てて高らかに述べた解説。私は目を点にして、瞬きをして、それからやれやれと首を振って、スーツの女性にジト目を向けた。
「そういう冗談いいんで」
「ホントだってば!」
「騙されないですって」
「森さんが言ってるテレクラの説明はホントよ?」
「また店長まで……」
一緒になって騙そうとしてくるだなんて、悪い大人だ。
でもそうは問屋が卸さないぞ。
フンと鼻を鳴らし顎をつんとあげる私の前で二人は顔を見合わせて、溜め息を吐いたりやれやれと首を振ったりしている。が、店長が何を思ったのか、スタッフルームを指差した。
「なんです?」
「裏行ってスマホでテレクラって検索してきなさい」
「え、でも休憩もらったばかりで……」
「いいから。5分以内。ほら行く」
行ってこい行ってこいとまーさんに手を振られた私は、1分後ケータイと睨めっこし、2分後眉をぎゅぎゅっと寄せ、3分後まさかと呟き、4分後冷や汗をかき、5分後肩を落として店内へ戻ってきた。
「……」
無言でカウンターの内側へ戻った私を見て二人はニヤニヤしている。
なんとも意地悪な笑い方だなぁと思うけれど、その笑顔の意味が今となっては十分分かる。が、とりあえず。
「まーさん、店長、疑ってすみませんでした……」
「いいってことよ」
「ま、ひとつ賢くなったから良しとしましょ」
さっき正解を教えてくれたのに変に疑って信じなかった。頭を下げる私に二人はとても大人な対応だ。
そんな大人にもう少し甘えることにした私は、頭を抱えた。
「愛羽さんにテレクラって言ったこと、謝るべきなんでしょうか……!?」
私にしてみれば悲痛な声での相談だったのだが、二人にしてみれば、爆笑を誘う一発ギャグと同等のものだったらしい。
笑われっぱなしで格好悪い事この上ない私は、もっと色んな事勉強しようと心に決めたのだった。
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