テレワークパロディ まーさん、ちょっと聞きたいんですけど (2)

===============



 や~すずちゃんにまで見抜かれるなんてねぇ。
 大袈裟に首を振るまーさんへおしぼりを差し出した店長は、「最近は忙しいのかしら?」とさりげにお仕事状況のチェックをしている。

「そこまで忙しくはなかったんですけど、急遽明日からテレワークの通達がありまして」
「なるほど。オフィスワーカーは大変ね」
「いえいえ。大変なのはどこもですよ。こっちの業界も悲鳴が多々上がってると聞きましたけど?」
「仰る通り。うちは見ての通り閑古鳥が鳴いて火の車よ」
「ええ? 本当ですかぁ?」

 大人な会話を傍で聞いていた私は、はっとした。
 テレワーク。そうだ! テレワークだ! 忙し過ぎて忘れてたけど、テレワーク!! テレワークだよ!!

 何回言うんだよとツッコまれそうなくらいテレワークと脳内で騒ぎながら、私は二人の会話が途切れるのを待った。
 が、なかなか大人って話を途切れさせない。しかもよりにもよって、店長はマスターとして話を広げるテクニックをいっぱい持ってるし、まーさんはまーさんでOLの、しかも部長さんとして会話スキルってものが高いから、全っ然話が途切れない。
 コロナがどうとかもう聞き飽きたよ! と心の中で叫んでいるうちに、残っていた1組のお客様がお会計の合図をしてきて、私はここを離れる羽目に。

 仕事だから仕方ないと諦め、お会計とお見送りを済ませ、外から戻ってきた頃にはまーさんは一杯目のカクテルを優雅に傾けていて、店長はテーブル席の片付けもしてくれていて、やっぱり仕事早いなぁと尊敬と感心をしてしまう。

「見送りご苦労」
「お客さんが言うセリフじゃないですね」

 しゅたっと手をあげ労ってくれるのはいいけど、まーさんはお客様だ。軽く苦笑する私だが、今が絶好のチャンス! とばかりにずっとずっと聞きたかった質問を繰り出した。

「まーさん。愛羽さんも言ってたんですけどテレワークってなんですか?」
「へ? テレワークはじたぇー、え、えーっとっとっと? あー? 愛羽はなんて?」

 これでテレワークの謎が分かるぞと前のめりになっていたのに逆に聞き返されるし、その前には妙な迷い方をしているし、一体なんなんだ……?

「愛羽さんは明日からテレワークになった。って言ってました」
「ほうほう。すずちゃん、テレワークが何か知らないんでしょ?」
「はい。だから愛羽さんに聞いたんですけど、教えてくれなくて」
「へーぇ? なんでまた?」
「明日になれば分かるから、って言って教えてくれなかったんです。意地悪でしょう?」

 ちょっとした愚痴……とも言えない程度の拗ねる気持ちを零すつもりで説明してみせたのに、何故か、ものすごーーーく納得したような「あ~。」という声が、まーさんからも、店長からも、あがった。

「な、なんです……?」
「井出野マスター。言ったらダメですよ」
「ええ。森さん流石ね。アタシなら事情聴取なんてせず教えてクラッシュさせてたわ」

 大人の二人は私の質問を放置して通じ合った会話をしているけれど、こっちはちんぷんかんぷんだ。
 だからどういう事なんですか? と改めて質問を投げかけてみても、二人は知らない知らないと言い張る。

「なんで教えてくれないんですか」
「え~? だって、ねぇ?」
「ねぇ?」

 ……ねぇ? って二人で頷き合ってるけど、分かんないんだって! なんだよそれ。
 愛羽さんも今日は意地悪だったし、おまけにまーさんも店長も意地悪だなんて。
 一体なんなんだよテレワークって。

 教えてくれない大人達に不満は募り、口を尖らせ、私はシンクの水滴を指先で弄りながら諦めの境地で溜め息を零す。

「じゃあきっと、テレクラの方も教えてくれないんでしょうねー……」
「は?」
「え?」

 あれ? 予想してた二人の反応と違う……?
 絶対、「それもねぇ?」とか言って顔を見合わせて教えてくれないと思ってたんだけど。

「テレクラは教えてくれるんですか?」



===============

コメント

error: Content is protected !!