テレワークパロディ まーさん、ちょっと聞きたいんですけど (1)

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 今日のバイトは20時から26時まで。

 近頃は話題のウイルスのせいで客足も遠退いてて売上がよくないと店長はボヤいてる。けど、そんな最近にしては珍しく、バーのオープン時からお客様がたくさんいらして、店長と私は忙しなくシェイカーを振るっていた。

 そんな仕事がひと段落したのは、24時を過ぎた頃。
 溜まっていた使用済みグラスをウォッシャーに入れて、はふと息を吐きながら曲げていた腰を伸ばす。
 そんな私の背をぽすと叩いたのは店長で、「働かせ通しで悪かったわ。休憩行ってらっしゃい」と小声で囁いてくれた。

「お先に頂いていいんですか?」
「どーぞ」

 私に勧めてくれた店長は、ピカピカに磨かれたオールド・ファッションド・グラスを長い指で持ち、軽く振った。
 どうやらこれからロックで一杯飲むらしい。自分は飲んだその後休憩に行きたいのだそうだ。
 お客様に勧められてもないのに飲むってことは、流石の店長でも結構疲れたみたいだな。

「じゃあすみません、休憩頂きます」
「ごゆっくり」

 一礼して店内から退室してスタッフルームへ。
 店内にはお客様が2組だけ。すでに1杯目はお客様の手元へあるし、店長一人で十分回せる。休憩はきっちり15分もらって大丈夫だろう。

 荷物の中から持ってきた飲み物を取り出し、がぶがぶと飲む。4時間なにも飲まずに働き通しだと随分喉が渇いた。
 あとは足もそれなりに疲れたなぁ。ソファで、軽く揉んでおいた方がいいかもしれない。

 凝り固まった体と、渇いた喉を回復させていると、15分なんてすぐに経ち、私は制服の乱れがないかチェックして、スタッフルームから店内へと戻った。

「いらっしゃいませ」

 自分が店内へ入った瞬間、店長の挨拶が響いた。
 一瞬私へ挨拶されたのかと思うくらいのベストタイミングでびっくりして固まってしまったが、店の入り口に立つスーツ姿の女性を見つけ、ぱちくりと目を瞬かせる。

「いらっしゃいませ」

 私を発見して軽く手をあげたのは、まーさん。
 もしかして、こんな時間まで働いてたのか……?

 彼女は迷うこともなくカウンター席へと進み、鞄を置くと春物のコートをするりと脱ぐ。
 すかさず、お預かりするため手を差し出せば「よろしくぅ」とロックンロールっぽい声と共に、高級そうなそれを渡された。

「いらっしゃい、森さん。遅くまでご苦労様ね」

 預かったコートを入口横のウォールハンガーへ掛けて店内をちらと見渡せば、1組お客様がいなくなっている。いつの間にか、お帰りになられたようだ。
 私はカウンターの内側へ戻ると手指消毒をして、気怠げに髪を掻き上げたまーさんをしげしげと眺める。

「……疲れてます? まーさん」
「お? せいかーい」



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