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「あ。そうそう。明日からテレワークになったの」
一緒に夕食をとっている時、思い出したように愛羽さんはそう教えてくれた。
二人掛けのダイニングテーブルの正面で、さらっとなんでもない事のように彼女が言ったのは……、
「テレ……?」
「ワーク」
聞き慣れない言葉だった。
後半を引き継いでくれた愛羽さんは笑ってる。”ああこれは理解してないな”と簡単に察した私の心中を面白がる様子で、目尻をにやつかせつつ説明はせず、食事を続けている。
「テレワーク」
「うん」
聞いた単語を繰り返す。けど、よくわかんない。
テレポートとか、テレビとかなら分かるけど、……テレワーク?
頷くだけで解説してくれない愛羽さんのいじわるに屈するのも、どうなんだ。
私は必死に、頭の中を探索して、テレワークとはなんぞやと謎を解き明かすヒントを探した。
うーん……うーん……?
「テレ……テレ……」
ワークは分かる。その英語の意味は仕事だろ? でもテレって?
聞いたことあったかなそんな言葉……。
頭の中の引き出しをひっくり返して探りながら、私の貧相な頭脳にはきっと無いであろうヒントを探す旅を続ける。
口では食事をそっちのけにずっと「テレ」を繰り返していて、愛羽さんにはクスクスと笑われてしまっているけれど、私はついに、頭の中にあった唯一のヒントに辿り着き閃いた。
「テレクラ!?」
テレで始まる聞き覚えのある単語を”これだ!”とばかりに叫びつつ愛羽さんを指差す。
その単語の「テレクラ」って何? と説明を求められれば、聞いただけだから意味は知らないと答える私だが、これは当たりを引いたぞと何故か確信して自信満々に言い放った。
が。
「ちがいます……!!」
なんでか顔を赤くした愛羽さんに、指差す手をぺちんと叩き落とされる。
そのあと即座に「馬鹿」と浴びせられ、なんでか赤い顔をした彼女に、めっちゃにらまれた。
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