教師パロディ 交際前編 3話

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教師パロディ 3
金本先生のターン

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「……なにこれ……」

 職員室の窓から見た外は土砂降り。
 まぁ夏にはよくある夕立だけど、1時間経ってもそれは勢いはそのままで止む気配なんて欠片も無かった。

 幸いだったのは、もうすでに帰宅した生徒が多かった時間帯だったこと。残念ながらまだ校舎に残っていた生徒も、これ以上雨が長引いたら帰宅できなくなる可能性も出てくるので、早急に家が近い生徒は帰らせた。

 そうこうしていると、大雨洪水注意報が大雨洪水警報に変わって、家が遠い生徒の対処で大慌てだった。
 保護者の方に連絡をとって迎えに来て頂く手配だったり、注意報が出た段階で帰宅させた生徒の安否確認。

 こんな時は生徒のほとんどが携帯電話をもっている時代で助かる。

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 教師陣がフルで電話回線を使って、なんとか生徒全員の安否確認と保護者の方への連絡がついた。
 あとは体育館に集合させた自宅の遠い生徒達の迎えを待つだけとなった。

 そこまでくると、教師陣は、今度は自分が自宅に帰れるかどうかの心配をしなければならない。

 車通勤の先生は、道は混雑しているだろうけど、それで帰れるだろう。
 しかし問題なのは公共交通機関を利用して通勤している教師。かくいうわたしもその一人だ。

 まぁ、ニュースを見たかぎり、あと2時間もすれば雨脚が弱まるから多分大丈夫だと思うけど……。

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 クラス担任の教師は、自分のクラスの生徒が全員帰ると、やれやれといった表情で帰路についた。
 生憎、わたしのクラスの生徒がひとり、随分遠くから登校しているのに加えて、保護者の方が仕事で迎えが遅くなるとのことで、大きな体育館に二人でぽつんと待つことになった。

 わたしは苦笑しながら、他の先生が帰ってゆく後ろ姿を眺めてから、床に座っている生徒を振り返った。

「全校集会とかだと狭く感じるのに、体育館って広いねぇ」
「そっすね」

 素っ気無い口ぶりの生徒は、ジャージ姿の男子バスケ部の生徒。宮本君。
 どちらかと言えば無口な彼は、バスケの為にこの学校を選んでわざわざ遠くから通っているそうだ。

「もうすぐ大会だから、一人で残って練習してたの?」
「はい。俺、負けたくないんすよ」

 手元に置いたバスケットボールを床で転がしながら、彼は熱く言う。

「次の大会、俺の幼馴染も他校から出場するんすよ。だから、絶対、負けたくない」
「いいライバルなんだね」

 ボールを見つめていた彼が、わたしの言葉に、驚いたように顔をあげた。

「だって、その幼馴染が宮本君の闘争心に火をつけてるんでしょ? 素敵なライバルじゃない」

 何か、思う所があるんだろうか。
 彼は一度ボールを見て、先程よりも強い声で「はい」と返事をした。

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 いいなぁ。なんかこう、青春、って感じよね。
 宮本君の熱さを感じて微笑み、わたしは彼の側にしゃがみこんだ。

「ね。スリーポイントシュートってわたしにも出来る?」
「ええ?」

 意外だったのか、彼はちょっと笑いながら、それでも嬉しそうに立ち上った。
 ダン、ダン、と床にボールを打ちつけながら「先生、バスケやったことあるんすか?」と笑う。

「学生の頃、体育の授業でやったわよ」
「部活は?」
「帰宅部」

 言い切ると、宮本君はおかしそうに笑う。
 無口だと思ってたけど、喋るし、よく笑う。しかも笑ったら、八重歯が可愛い。
 生徒の見えていなかった一面を発見できた。この大雨に、感謝ね。

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「ねぇこのボール鉛でも入ってんじゃないのっ? 重い!」
「普通っすよ。ほらちゃんとあの四角いとこ狙って」

 彼の指導のもと、もう10回はシュートしてるんだけど全然入らない。ゴール下でわたしがミスしたボールを受け止めてこちらに投げてくれる彼は軽々とそれを扱っているけど、わたしには随分重たく感じられる。

「こんなの本気で取り合ってて顔にぶつかったりしないの?」
「たまにありますけど、鼻血っすね」
「ぅわぁ……」

 固いし重いし、そりゃこんなのが鼻に当たったらそうなるわよね……。
 顔を顰めるわたしを見て、宮本君が八重歯をみせて笑った。と、その時。
 ガラリと体育館の扉が開いた。

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 宮本君の保護者の方がいらしたのか、とそちらに顔を向ければ、安藤先生。しかも、いつもスーツに白衣を羽織った姿なのに、上下黒のジャージ姿。肩にはタオルを掛けていて、心なしかその髪が濡れている気がする。

「あれ、まだ居たんですね」

 わたし達を見比べて言いながら近づいてくる安藤先生。

「もう帰ったんじゃなかったんですか?」
「一応、校舎見回ってきたんです。こういう時ってヤンチャがしたくなるでしょう? 実際男子が二人隠れてましたから」

 苦笑する彼女は、今し方、その二人を車で送ってきたのだと言う。
 校舎と車までの往復でも服が大分濡れて、着替えたのだそうだ。

「災難だったね、はい、ラストワン賞」

 わたしに事情を説明した後、宮本君に差し出したのは飴。

「ホントはこんな事しちゃダメだから、他の先生や友達には黙っててね」

 と、悪戯っぽく笑いながら彼の手のひらにそれを置いた。

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 飴の包み紙をはがして宮本君が口に放り込むのを横目に、安藤先生はわたしの持ったバスケットボールを見つめた。

「金本先生バスケやってたんですか?」
「ううん、帰宅部」

 言い切るとまた笑われた。
 世の中なんで帰宅部って言うと笑われる仕組みになってるのよ、もう。

 彼女が手を差し出すので、ボールを手渡す。
 両手の中でくるくるとそれを扱う手付きに、「お?」と片眉をあげた。

 ダン、ダン、と床にバウンドさせる様子は、先程の宮本君に良く似ている。

 ――慣れてる。

 そう思った瞬間、安藤先生は頭上にボールを構えて、ゴールに向けて放った。

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