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教師パロディ 2
金本先生のターン
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生徒指導ってなんでこんな大変なのかしら。
わたしは顔には怒った表情を貼り付けて、心の中でぼやいた。
早朝、と言っても7時になったばかりなんだけど、わたしは校門の前で、3人の生徒を通せんぼしていた。
女子二人はスカートの丈が随分短いし、男子は耳にキラリと光るカフスピアス。
女子の方はスカートを腰の所で折り返してたくしあげているだけだから、直せばスカートは膝丈にはなるし、男子は穴もあけていないその装飾品は取り外せばいいだけ。
まったく子供らしい可愛い抵抗に呆れるけれど、教師として、三人をこの服装のまま校内に入れる訳にはいかない。
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「この時間なら居ねぇと思ったのに」
「ねー」
「それな」
煩そうにわたしを見てくる三人の会話に、目を見開く。
「まさか服装チェック抜ける為にこんな早くに登校したの?」
ここに7時過ぎに居るということは、家を6時半には出発したということ。となると起きたのは……随分早い。
その努力と根性を、真っ当な方面に何故向けられないのか。不思議でしかたない。
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「ねー、せんせー彼氏とかいないの?」
「もうそんな事いいから服装直しなさい」
いつまで経ってもぐだぐだと抵抗し続ける三人に呆れてきた頃、一台の車が姿をみせた。
わたし達4人が校門の真ん中で話し込んでいたのでその車は、ゆっくりとブレーキを踏んで、校門の手前で停車した。
「おー! かっけぇ! アルファードじゃん!」
大きな車を見て叫んだのは男子生徒。
やっぱり男の子は車って好きなのね。わたしは車の事はよく分からないし、所持もしていない。電車通勤だし。
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叫ぶ男子を、車に興味がない女三人が不思議そうに見る。
「ねー、ケン。そんないい車なの?」
「は? お前これ500万くらいすんぞ! かっけぇ! 乗りてぇ!」
「え、500万!? プリクラめっちゃ撮れるじゃん」
……たっか。そんなに車にお金つぎ込んでどうするのか謎だわ。
いつまでも校門の真ん中で車の邪魔をしていてもいけないと、脇に避けようとしたら、目に入った。運転席に居るのは、安藤先生だ。
「なんだよチュンチュン! こんな良い車乗ってたんかよ!」
「500万もしてないけどね」
苦笑を漏らす彼女は、わざわざ運転席から降りてきて、わたしに「おはようございます」と挨拶してくれた。
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「おはよう。ごめんね、通せんぼしちゃって」
「いえいえ。ていうか何事ですか?」
「服装チェック」
三人を指して言うと、彼女は納得したように頷いた。
そんな彼女の肩を叩く男子生徒。
「チュンチュン、これ俺に運転させて」
「無理。でもケン君が耳の外して、二人がスカート直したら乗せてあげる」
さらりと言ってのけた彼女に、わたしは目を丸くする。
安藤先生がそんな砕けた口調で生徒と話すのを初めて聞いたのも驚きだし、さっきまであんなにゴネていた男子生徒が耳を引きちぎりそうな勢いでそれを外して、女子二人にもスカートを直すように催促し始めたことにも驚いた。
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女子二人も、教師であるわたしからの言葉でなく、同級生の彼からの催促ならば従うらしく、短くしていたスカートを伸ばし始めた。
「チュンチュン! 乗っていい!?」
「いいよ。汚さないでね」
いぇーい! とか叫びながら助手席のドアを開ける男子生徒。
安藤先生は女子生徒二人にも「乗る?」と声をかけている。
後部座席のスライドドアを開けて、二人が乗る為に支える手を差し出しながら、彼女はわたしへ顔を向けた。
「金本先生、この三人、服装これで大丈夫ですよね?」
「え? あ、うん大丈夫」
「じゃあ、失礼します」
にこ、と笑って安藤先生は二人が乗り終えた後部座席のスライドドアを閉める。
窓を開けた男子生徒が車内にあったガムのボトルをカシャカシャと振りながら「これ食べていー?」と無邪気に尋ねている。
「あーそれ2ヶ月くらい開けてないんだけど食べる勇気ある?」
「うわ汚ねぇ! 捨てろよ!」
「ごめんごめん、捨てるから貸して」
窓から投げられたそれを片手で受け取って、運転席へと回る安藤先生は車内からわたしに会釈すると校内駐車場へと車を走らせていった。
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