教師パロディ 交際前編 1話


※閲覧注意!※

愛羽…英語教師
雀……理科教師

パロディです。
二人が教師という設定(同じ学校の)で、校内で秘密の恋愛してます的な設定です。

受け付けない方は読まないでね!ヾ(;´▽`A“


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教師パロディ 1
安藤先生のターン

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 私がこの学校へ赴任してきて数ヶ月。
 未だ、あの人からの小言は絶えない。いや、これを小言と片付けるかそれとも熱心な指導と取るかは、人それぞれなんだろうけれど。

 流石に授業内容について一々口出しされるのは、正直、どうかと思う。

 そりゃああの教頭先生が元々、元々理科の先生やっててその後昇進して、現在教頭先生をやっているのは凄いと思う。勤続年数とか試験とか研修とか色々クリアして、昇進したんだから。
 そこは尊敬に値する。

 そんな教頭が赴任当初、わたしの授業進行や内容、計画をチェックしていくのは「まぁ来たばかりだし、心配されて当然かな」と受け入れていたものの。

『これはいらない内容です』
 いやいやこれは必修内容ですよ。
『この実験はやらせない』
 ……私がこの実験しても60分はかかりますけれどそれを生徒に……?

 そこで反論したのがいけなかったのか。
 果てには教頭先生が昔自分がやった授業内容をとったノートを10年分もってきて、参考にしなさいときた。

 ……昔と今じゃ、必修内容は変わってくるし、実験道具だって新しいものが入ってくる。そりゃこういう資料はありがたいけれど…………。

「でも今この学校の理科の先生は私なんだからさぁぁぁ……」

 夕方6時。
 まだ夕日が差し込む理科室で、大きな実験机にぐたりと突っ伏した。

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 顔を伏せたまま溜め息を吐く。
 他校で理科の先生をやってる同期や、以前勤めていた学校で知り合った理科の先生。果ては、学生時代お世話になった理科の恩師にまで連絡をとって話を聞かせてもらったのだけれど……。

 行き過ぎた指導、との声が大きかった。

 恩師に至っては手を回して制裁を加えてやろうかとまで言ってくれたのだが、流石にそれは辞退した。
 そんなことを教頭という立場のあの人にして、恩師に何かあってはたまらない。

 私は突っ伏したまま、実験机をコツコツと指先で叩いた。

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 私の事はまだいい。
 どうせ、教師なんか同じ学校に長くて4年、5年のものだ。どこか他の学校へ異動すればあの教頭先生とはおさらばだ。

 でも、生徒達にとって、この学年は、授業は、一度きりしかないのだ。
 なのに、古びた授業をさせてしまうだなんてことは避けたい。いや、避けなければいけない。

 もしかしたら、私が恩師の授業を受けて「理科の先生になろう」と思ったような、同じ志を持ってくれる子が、この学校に居るかもしれない。
 その子の芽をつみとるようなことは……したくない。ん、だけど……。

 参考資料の教頭先生のノートを見た限り、子供達の興味を引けそうな内容は見当たらなかった。

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「これ、参考にしなかったらまたどやされるのかぁ……」

 いやだなあぁ。
 だってハッキリ言って面白くない授業受けて「理科の先生なろう!」なんて思う生徒いないよ。

 いやでも私は「理科の先生になろう!」という子供を育てる為にここに赴任した訳ではなくて、理科を教える為にここに来たのだ。
 そこの順序を見誤りはしないけど。なんて滔々と考えていたら、ズガァと理科室のドアが開いた。

 どうでもいいけど、理科室の引き戸って重たいと思う。
 スライドさせた時の音は、カラカラカラでも、ガラガラガラでもなく、”ズガァッ”だと思う。

 その激しい音に伏せていた顔と体を起こせば、姿を見せたのは英語の先生だった。

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 金本先生、と私が口を開く前に、彼女が自分のお腹に手を当てた。

「ポップコーン食べたい、安藤せんせ」

 開きかけた口を苦笑の形に変えて、近付いてくる彼女を見上げる。
 一体どこから聞きつけたのだろうか。
 最近、実験でアルコールランプを使った熱変化と物質の三態の学習をしたばかりなのだ。

「あれは理科の授業で使うものですよ」
「だって子供達が美味しかったって言ってたもの」
「実験と観察が終わった子のご褒美です」
「わたしの頃は、理科の実験でポップコーン作ったりカラメルソース作ったり、そんな面白い授業無かったのよ?」

 悔しそうに過去の体験に唇を尖らせる金本先生。子供のようにそうする姿は可愛くて、本来ならばドキドキしそうなくらいなんだけど、今の私には”面白い授業”というワードの方が、正直、嬉しかった。

  

 思わず、目元と口元を緩めて、棚に仕舞った道具たちに視線を投げる。

「わたしも実験勉強したい」
「金本先生は食べたいだけでしょう?」

 揶揄うように言いながら立ち上ると、私は戸棚からアルコールランプと三脚、金網、ビーカー、アルミホイル、マッチを用意した。
 生徒達が使う実験机にそれらを広げて、今度は小さな冷蔵庫の中から砂糖とポップコーンの豆を取り出す。冷蔵庫の上に置いてあったサラダ油と一緒に実験机へと運ぶ。

 わたしが準備するのを、四角い木製のイスにちょこんと腰掛けてながめる金本先生は、なんだか生徒みたいだった。

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 それから数十分後。

「おいひい」

 まるでハムスターのようにできあがったキャラメルポップコーンを頬張る金本先生に、小さく笑う。

「火傷しないでくださいね」

 出来たてのそれを熱々で触れない程高温のビーカーから割り箸で摘み上げる彼女に告げて、もう学校で使うことはないポップコーンの豆の袋を仕舞う。
 砂糖はまだ……他の実験で使えるかな。とその袋を冷蔵庫に仕舞うと名前を呼ばれた。

「はい?」
「こっち来て一緒に食べようよ」

 手招きする彼女に、そういえばこの実験は何度もしたけれど、食べたことはなかったな、と気が付いた。

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 金本先生の横のイスへと腰掛けると、口元へ割り箸に挟まれたポップコーンが近付けられた。

「あーん」
「い、いいですよ自分で食べれますって」
「ダメ。熱いもん。ほら口開けてくれなきゃ落ちちゃう」

 ほら、と言いながら今にもそれを取り落としそうになる彼女の様子に、私は慌てて口を開いた。
 その中へと転がり込んだポップコーンは甘くておいしい。しかも、出来立てというのがまた格別。

「美味しいですね」
「ね。生徒達が騒ぐのも分かる気がする」
「騒ぐ?」

 彼女の言葉にひっかかりを覚えて尋ね返すと、金本先生は微笑んだ。

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「安藤せんせの授業、面白いからもっと理科が増えたらいいのに、って言ってる子、多いわよ?」
「え」
「授業内容に添った実験やってくれるから、覚えやすいって」
「……」

 じわ、と胸に広がる波。
 嬉しくて、ちょっと、泣きそう。

「先生は自信もって自分の授業しなさい。他の誰でもない、貴女の授業を受けた生徒が面白いって言ってくれるのが、何よりの証拠でしょう?」

 箸を置いた手が、私の頭に乗せられた。そのまま、三回、頭を撫でて金本先生は椅子から立ち上った。

「ご馳走様」

 言い置いて、颯爽と理科室のドアへと向かう彼女の後ろ姿を見つめながら、思う。

 多分、金本先生は気が付いているんだと思う。
 私が教頭先生から色々言われているのを。

 それでわざわざ声を掛けに来てくれたんだ。
 ポップコーンはただのきっかけに過ぎない。

「金本先生」

 私の声に、開いた扉に手を掛けたまま、彼女は振り返る。

「ありがとうございました」
「また、遊びにくるわ」

 柔らかく笑んだ彼女は、踵を返してひらりと背中で手を振る。
 担当教科は違えど、先輩教師の優しさをくれる彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、私は視線を送り続けた。

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