学生パロディ 出会い編 6

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 その場にいる3人の視線が集中して若干狼狽えつつも、歩み出て「すみません、捻挫しました……」と報告すれば、「あらぁ」と気の毒そうな声をもらした保健室の先生こと水守先生はすぐに椅子から立ち上がって、部屋の端にある丸椅子を取りに向かってくれる。

 その間わたしの方へツカツカツカと足早に近付いてきたのは、井出野先生。
 この人は、安藤先輩以上の長身で、傍に立たれるとわたしは頭をずいぶん後ろへ傾けて見上げなければいけないのだけど、

「どっちを捻ったの?」

 軽く膝を曲げて顔を覗き込みながら尋ねてくれる親切さに驚きと感謝をしつつ、左ですと答えれば、急に、手を握られた。

 大人の女性の手代表、とでも言えるような綺麗な手だ。
 指は長く細く、爪は短く整えられているものの、つるりと磨かれ綺麗。
 そんな手がわたしの左手を掬うように握り、さらに反対の手で、二の腕の内側をしっかりと握り、支えてくれた。

「すこし、歩ける?」
「は……はい」

 安藤先輩の時とは違ったドキドキに胸を支配されながら頷けば、水守先生が持ってきてくれた椅子まで誘導と補助をされ、ゆっくりと、着席。

「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」

 椅子に座った後も、長身を少し屈めて尋ねてくれる井出野先生は、わたしの返事に目元をすこし緩めて頷くと、水守先生へ視線を遣って「ハル、任せた」と引継ぎを宣言。
 ハルというのは……たぶん、保健室の先生のことだろう。苗字にハルという文字列は見当たらないので、きっと下の名前かな。

「は~い」

 歌うように返事をした水守先生は、わたしの前へ小さな台のようなものを置いて、上履きと靴下を脱いで足を乗せるように指示をくれた。

 それに従っていると、背後では、

「アンタ普通に歩かせて来たんじゃないでしょうね?」
「え? 歩かせ……? 普通に歩いてきましたけど?」

 という会話。
 井出野先生と安藤先輩の声だけど、直後、ベシと音がして、わたしは驚いて靴下片手に振り向いた。

 ――い、今の……叩いた音……?

「いってぇ」
「どうせ肩貸すこともしなかったんでしょ馬鹿」

 安藤先輩頭擦ってるし絶対今さっき叩かれたよね……!?
 今時普通に生徒叩く先生とか居るの……!?

 若干、いやかなり引いて、暴力を振るったのであろう井出野先生に、信じられないとばかりに視線を送る。だって、さっきわたしを支えてくれた時にはすごく優しかったのに。
 どうして安藤先輩にだけあんな態度を……と思っていると、わたしの正面から、小さな笑いが聞こえてきた。

「びっくりした? でもあの二人はいつもあんな感じだから、気にしなくていいのよ?」

 水守先生は言うけれど……。

「で、でも……」
「怜……井出野先生は女バス顧問で、雀ちゃんとはもう2年の付き合いになるし、休みの日も部活終わってストリートバスケのコートに一緒に出掛けてバスケしてる二人なの。友達みたいな関係で、あれもコミュニケーションの一環だから気にしないで?」

 あ……顧問だったんだ……井出野先生。
 それに二人で練習もしてるから仲いいのか。へえぇぇ。

 思いもしなかった事実に感心の頷きを繰り返していると今度は背後から井出野先生の声が飛んできた。

「誰が友達よこんなガキ」

 どうやら、井出野先生、水守先生の言葉を聞いていたらしい。
 随分年齢の離れた友達関係は、認めがたいようだ。

 でもすかさず安藤先輩は、

「マブダチじゃないっすか」

 とか言いながらニヤニヤしてる。
 すぐ頭叩かれて「いってぇ」って、頭擦ってたけど。

「ね? 仲良しでしょ?」

 わたしの足の具合を診てくれていた水守先生は笑いながら二人を指差した。

 まぁ……叩かれている安藤先輩もまんざらでもなさそうだし、そうなのかなぁ……?
 井出野先生も悪い人には見えなかったし……。

「そう……なんですかね……?」

 今日会った二人相手に、はっきりと「そうですね」とは言いきれないものがあって曖昧に答えれば、水守先生はちょっと笑って、「そうよ」と自信満々に頷いた。

 ん……仲良し……。
 安藤先輩と仲良し……。

 ………………正直、いいなぁ、と思ってしまう部分があって、わたしはそんな気持ちを抱く自身にちょっと戸惑いながら、手際のいい手当てを眺めるのだった。

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