学生パロディ 出会い編 2

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 お、遅くなっちゃった……っ!

 ああもう! と心の中で繰り返しながらわたしは廊下を走り、階段にさしかかったところで更に、なんで委員会会議とクラブ見学期間初日を被せる日程なのよ馬鹿じゃないの!? と憤る。
 だけど心の内だけでは事足りなくなって小声で、

「普通そういうのって被せないでしょ……!」

 と怒鳴りながら、階段の残り3段を飛び降りた。

 学校の廊下は走らない、もちろん階段だって廊下の内に含まれるだろう。そのお約束を守らなかった罰があたったのか、わたしは一瞬で足首を捻った。

「イッ!? ……た……た……」

 無事な片足のケンケンで数歩分跳ねて駆けてきた勢いを殺し、壁へ片手を着き立ち止まる。

 じっくじっくじっくと痛みを訴える足首だったけれど、そちらの足を床へつけてみれば、意外と、痛くない。
 よかった。捻挫寸前でなんとかとどまってくれたらしい。

 階段から飛び降りたとき変な着地をしたせいでまだ残る痛みはあるものの、歩けない程ではない。

 左足を庇うようにひょこ、ひょこと歩き出しながら、「最悪」と呟く。
 ついてない。
 なんでこんな事に。

 流石にこの足では廊下を走れないので、お約束通りに廊下を歩き、やっと体育館へ辿り着いた。

 が。

 中では、バスケットボールをドリブルしているような、ぼんぼんばんばんと重たい音が複数響いてくるし、シュートの練習でもしている最中なのだろうか。

「ナイシュー」

 と、”ナイスシュート”を言い慣れ、ちょっと適当になった感じの声が聞こえてくる。
 そんな体育館のドアは既に閉じられていて……なんかちょっと……いや、ちょっとではなくかなり、入り辛い。

 委員会会議で遅れた、という仕方のない理由があれども、見学受付時間を過ぎてからこの体育館の扉を開けるのは……勇気が要る。
 例えばわたしがバスケットボール経験者であるなら、ぐいぐい行けるんだけど、ルールもなんにも知らず、そしてプレイヤーではなく、マネージャーとして女子バスケットボール部に所属したいのだという中途半端さ。

 ――……ぁ、明日にしようかな……。

 クラブ見学日は、今日から3日間設けてある。
 どのクラブにしようか迷っている人は、3日の間に複数のクラブを見学して回り、最終決定を下しましょう、という期間なのだ。

 明日もあるのだから、と今日、委員会会議が終わったときには考えた。でも、マネージャーなんてきっと必要人数枠は上限があるだろうし、早い者勝ちだろうし、急いだ方がいいと考え直し……廊下を走ってきてこんな足になってしまったんだけど……。

「……」

 体育館の出入り口付近で立ち止まったまま、わたしはじくじくと痛む片方の足を見下ろした。

 ――……明日で、いっか。

 マネージャーになれなかったら、なれなかったで……いいし。
 元々、高校は帰宅部で過ごそうと思っていたんだし、わたしがマネージャーにならなくても誰も困らないし、今現在、わたしがマネージャーを希望してるっていうのは誰も知らない訳だし、このままUターンしてもいいはず。

 体育館に入らない為の理由は、挙げようと思えばいくらでも在った。

 それら全てに「そうだよね」と頷けるし、足も痛いし、今日は帰ろう。そう思って振り返りかけたときだった。

「見学希望者さん?」
「ひぁっ!?」

 心臓が口から飛び出るかという程わたしを驚かせたのは、背後に居た人物だった。
 声を掛けられ、ビクンと跳ねあがった体はどうしようもないけれど、叫んでしまった口は咄嗟に覆う。

 振り返ればそこには背の高い人が居て、片手には紙の束を握っていた。

「ごめん、そんなに驚くと思わなくて」

 彼女はハの字眉で謝ってくれるけれど、こちらは口を手で覆ったまま、首をカタカタカタと横振りするのみで声も出せない。

 だ、だっ、だってこの人あの人!
 クラブ紹介の日トランポリンでダンクシュート決めた人っ!!!

 女子バスケットボール部の部長さんはわたしの様子に苦笑をして、改めて体育館のドアを指差し「見学希望者さんかな?」と柔らかめの声音で、尋ねてくれた。

 ――か、帰ろうと思ってたとか言えない……。

「は、はい」
「そっか! よかった! 来てもらえてうれしいよ。どーぞどーぞ」

 ぱっと笑顔を浮かべた部長さんは、さぁほらほらと云わんばかりにわたしを追い抜き、体育館のドアへ手を掛け開けようとする。が、わたしが「でも……!」と続けて発言したことで、取っ手に引っ掛けられた指は、動きを止めた。


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