※ 隣恋Ⅲ~のたりかな~ は成人向け作品です ※
※ 本章は成人向(R-18)作品です。18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします ※
※ 本章は女性同士の恋愛を描くものです ※
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~ のたりかな 25 ~
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長い髪は女性の美しさだと思う。
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短い髪の女性がいけないって訳でもないんだけど、まぁただ単純に、私の好みが長い髪の女性というだけの話だ。
大きな浴槽の中で私達ふたりは向き合う形で、泡で遊ぶ。その最中に、チラチラと盗み見るのは、濡れないように纏めて上げてある愛羽さんの長い髪。
昼間にシャンプーはしてあるので、今は洗うつもりがないのだろう。いつの間に用意したのか、髪ゴムで結わえてある。
お風呂の中に居るのに、濡れていないふわりとした髪はなんだか新鮮で、さらに言えば、結わえあげた髪が色っぽくて、そしてさらに言えば、うなじがどうしようもなく色っぽい。
「……」
見ているだけでのぼせそうだな、と馬鹿な呟きを胸中に漏らして、私はすぃ、と彼女から視線を逸らした。
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両手で泡を掬い上げて、ふーっと息を吹きかけて飛ばす遊びをし始めた愛羽さんは、持ち上げた泡越しに私をチラリと見てから、口を開いた。
「元気出るまで傍に居ます」
「は……?」
突然、何を言い出すのか。しかも、敬語で。
ポカンとした表情で愛羽さんを見つめると、彼女は少し笑って、私の顔に向けて泡を吹きかけてきた。
「うべっ」
開いていた口にクリーンヒットした泡を浴槽外にペッペと吐き出してから、口に広がった苦みに渋い顔をする。
「まっず……」
「ごめんごめん。キスしてあげるから許して」
「……なんでもキスすりゃ許されると思ってません?」
「じゃあキスしない?」
「しますけど」
ばしゃりとお湯と泡をかき分けて愛羽さんを抱き寄せると、笑みの形をしている唇に自分のそれを重ねた。一度啄んだだけで、舌を捻じ込んでみせると、苦みが伝染したのだろう。薄目を開けて窺っていた愛羽さんの顔が歪んだ。
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顔を顰めたままもごもごと口を動かす彼女が、ぼそりと呟いた。
「にがい……」
「まだ薄まった方なんですから我慢してください。それより、さっきのは何だったんですか?」
「何が?」
「元気が出るまでナントカってやつですよ」
口に広がる苦みで記憶がぶっ飛んだのか、愛羽さんは首を捻った。けれど、すぐに「あぁそうそう」と思い出したように頷いた。
「雀ちゃん、忘れたの?」
「え?」
「自分が言った言葉のくせにぃ」
ぶす、ぶす、と責めるように指で胸を突いてくる彼女を抱き締めたまま、私は自分の記憶の引き出しを漁りまくった。
自分の言った台詞? いつ、言ったんだ?
「あーーー……覚えてない。ひどい、雀ちゃん」
「え、え、ちょっと待って。もう一回教えてください、元気がなんですって?」
焦る。じろりと睨み上げてくる視線が余計鋭くなっていくのが怖い。
「もう一回聞いたら絶対思い出しますからっ」
ね? ねっ? と頼み込んでもう一度だけチャンスをもらう。
むすりとした愛羽さんが溜め息をついて、私の両耳たぶをぐいと引っ張って「耳の穴かっぽじってよく聞きなさいよ」と不機嫌そうに言い放った。
カクカクと頷けば、ちょっぴり乱暴な手を離した彼女が、いきなり、膝立ちになった。
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驚いて彼女を見上げると、その泡だらけでやけにいやらしい胸に抱き寄せられて、ぽふぽふと頭を撫でられた。
「元気出るまで傍に居ます」
――ゲンキデルマデソバニイマス。
――元気でるまで……そばに……います。
何度も胸中でその言葉を繰り返しながら、いきなり抱き締めた彼女の行動にも意味があるんだろうと考えを巡らせる。
きっと、私がこの台詞を言いながら、こうして抱き締めたってことで……。
――元気出るまで傍に居ます。
てことは愛羽さんが元気がなかった時に言ったということで……。
彼女が元気がなかったとき……記憶をずんずん遡る。
いつ? いつだ……?
元気がなかったとき……元気がなかったとき……。
「……………………あ!」
とっくん、とっくん、と肌から伝わってくる愛羽さんの鼓動を耳にしながら考えていて、ようやく、思い出した。
声をあげて、ぱっと顔を上げた瞬間、沁みる両目。
どうやら、愛羽さんの胸に付着していた泡が、目に入り込んだらしい。
「ぅぐあ……目が……」
これは愛羽さんも予想外だったらしく、あらら、大変。と言いながら、蛇口を捻ってぬるま湯を出してくれた。
それで何度も目を洗いつつ、どうして突然あんな大昔の台詞を彼女が言い出したのだろうと内心、首を傾げた。
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